5い

耳の奥までぶち抜かれそうな騒々しいミュージック。目の前に積み上げられた分厚い選曲の本は、さっきからパラパラと見すぎでいい加減、くたびれてきたような気がする。

(元々、ぼろぼろだったんだけど、こっちの気持ち的にな)
 
目の前で繰り広げられたマイク争奪戦は、結局のところは最初の一曲だけで終わらずに。二曲に一回はハチと三郎が歌っている。その隣で雷蔵は楽しそうに(けど、どっかずれて)タンバリンを鳴らしていた。はぁ、と溜息を一つ。大きくついても誰も咎めないだろう、とわざと思いっきりしてみる。きたからには、一応、歌わなければ、と本と睨めっこしてるけれど、ただでさえ細かい字で情報量の多いそれは、頭が割れそうなほど大きな歌声に邪魔されて、ちっとも入ってこない。さっきから目が滑っていて、俺はあきらめてぱたりと閉じた。

「あれ、兵助、歌わないの?」

耳に吹きかかった息にびっくりして顔を上げれば、隣には勘ちゃんがいつの間にかいた。(さっきは、二人の間を割るようにして歌ってたのに)驚きに言葉が出ずにいると、聞こえなかったのかと勘違いしたのか、勘ちゃんは大きく口を開けて、同じことを聞いてきた。慌てて「や、歌うけど……」と、手を横に振って『違う』ということを示す動作を付け加えながら答える。

「もしかして、ジャイアン?」
「…じゃないと思う。ただ、ちょっと恥ずかしいというか」
「なら、一緒に歌う?」

この辺りだったら歌えるよ、と耳にしたことのあるJポップを勘ちゃんはいくつか挙げた。「え、けど、せっかく来てるんだから一人で歌いたいんじゃないのか?」目の前で熱唱している二人を見ていると、とてもじゃないけど一緒に歌って、という雰囲気ではないものだから、俺はそう尋ねた。

「いいって。俺は歌えたら何でもいいし」
「そっか……なら、歌ってくれると助かる」





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