鉢雷
「泣いているのかい?」
目の前の少年は自分とそっくりだった。けれども僕は僕で、ここにいる。ということは、少年は三郎なんだろう。そう、三郎とそっくりなはずなのに、何かが違った。じっくり観察してみて、あ、と声を上げそうになった。だって三郎がピカピカしてたものだから。すぐさま夢だと分かった。
(じゃなきゃ、三郎がピカピカ光っているなんてありえない)
だから、大きな声を出したら夢から覚めてしまうんじゃないかって思っ、僕は慌てて口を押さえた。
「どうしたんだい?」
パシリ、と両の手で口を塞げば誰だって不審に思うだろう。怪訝そうに僕を見遣る三郎に「ううん、何でもない」と答える。けれども、やっぱり三郎には敵わない。「ピカピカの事?」と聞かれ、僕は頷いた。
「今日は満月だからな、不思議なことが起こるのさ」
すると彼の周りをピカピカと覆っていた優しい金色がふわふわと闇に溶け出した。それまで、真っ暗でしかなかったはずの闇が、深淵の色がなかったはず世界が、不意に蒼に変わった。優しい、僕のよく知る蒼に。不意に三郎が笑った。「あぁ、良かった、泣き止んだ」と。それから「そろそろ、行かないと」と呟いた。僕は「どこへ?」と尋ねたけれど、彼は「月へ」と茶化して答えてくれなかった。と、それまで彼に優しく灯っていた金色の光が急に強くなった。それはどんどんと勢いを増していき、目を開けていけないくらいに眩しかった。ぐっ、と固く瞑ってくれれば、耳にハミングみたいな声に届いた。
「あっちで待ってるよ」
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