兵+鉢雷
「もう三郎っ」
腹の底から声を張り上げてみたけれど、それが響く頃には三郎の姿はどこにもなかった。「相変わらず逃げ足だけは早いなぁ」背後からのんびりした降ってくる。
「兵助」
「今度は何をやったんだ?」
口にするのも疲れて僕は返事に代わって溜め息を吐き出した。
「毎回毎回、大変だなぁ」
「もう怒る気力もないよ」
肩を落とすと兵助は唇を少しだけ曲げてみせた。
「まぁ、あいつは雷蔵に怒られたくてやっている節があるからなぁ…しかも雷蔵が許してくれるって分かっているあたり、タチ悪いよな」
そうなのだ。本気で他の人に迷惑を掛けるイタズラなら断絶することもできるんだけど…
「惚れた弱みかな」
ぼそりと呟けば「誰に?」天井から三郎の声が降ってきた。
2.怒らせてみたくて、
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