いち、に、さんで終わらせて
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金吾ちゃんは今は部活。
帰宅部のわたしは待つしかなくて、教室からぼんやり外を眺める。
だけどずっとぼんやり待ってるのもわたしらしくないから、こっそり剣道部の活動を見に行く。
金吾ちゃんは部活を見に行くととても怒るので、ちらりとしか見られないけれど、歩みを出来る限りゆっくりにして、ちらりとだけ覗きこむ。
丁度一本とったところであるらしく、皆同じような格好をしているのにも関わらず輝いて見える。
「かっこいいなあ…」
ぽそり、と呟いてこっちを振り向かれないうちにその場を離れた。
多分今日も気付かれていないはずだ。
そして教室に戻ってまたぼんやり。
スマホもいじりあきてしまったし、ラインも動かない。
わたしが金吾ちゃんを待つまでのあの楽しみが終われば、もう何もすることがなくて、ゆっくりとまぶたが落ちてくる。
「…ねむ、」
そのまま視界は真っ暗に。金吾ちゃんが部活を終えて帰ってくるまでの一眠り。
「真帆ちゃん、ごめん!部活終わっ……寝てる」
夢と現実の境目で、ぼんやりする頭でなんとか金吾ちゃんの声を聞き取る。
金吾ちゃんの席のある方からガタガタと音がして、金吾ちゃんが荷物をまとめているのがわかる。
そして金吾ちゃんはわたしのほうへ近づいてきてゆさゆさわたしを揺さぶる。
起きてる、起きてるから、もうちょっとだけ。今、もうちょっとで金吾ちゃんと…あれ?
「おきた?部活終わったから、帰ろう」
教室のドアのところで、金吾ちゃんがわたしを呼ぶ。
そして手をこちらに伸ばしてくれる。
わたしは大慌てで鞄を取って立ち上がる。
「金吾ちゃん!!」
「ちゃん付けはやめろって…あ、うわわ!」
わたしの席から、教室のドアまでいち、に、さん。いつもとお決まりの三歩。
だけど君の胸元に飛び込むまでの三歩は、いつだって長すぎる。
心の準備なんかとっくに整っているのだから、早く早くと焦るばかりだ。