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理想と爆風

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「大山田さん、好きです。付き合ってください。」

ある日の放課後、誰も残っていない教室で、わたしの密かなる理想、黒木くんがそんな言葉を言った。
大山田さんとは他でもないわたしのことで、大体教室に居るのもわたしだけ。

「え、え、え、」

戸惑うばかりのわたしにとは正反対に、黒木くんはとっても落ち着いた様子に見える。
頬は確かにちょっぴり染まっているかもしれないけど、微笑んでるようにも見えるようなそんな表情をしている。

「で、でも、そんなの、わたし考えられないよ」
「なんで?」
「わ、わたしは黒木くんに憧れてただけだもん。こういう人になりたいなって、理想なだけなの。」

だってわたしは、君になりたいと思っていた。
わたしの理想像、それが君だった。
そんな君と付き合うなんて考えたこともなくて、恐れ多くて。
本当に青天の霹靂といった感じだ。
ぽつりぽつりそんな事を話したわたしに、黒木くんはあまり考えもせずに言う。

「でもさ。僕が君の理想像ってことは、僕が理想の男性ってことだよね。それって、僕が好きってことじゃないの?」

いつも見せる優しい笑顔に、なんともいえない説得力を感じる。

「そう、なのかな」
「そうだよ」

そう言われてから改めて自分の体を確認すれば、胸が縮むように痛かった。
頬も心なしか熱い気がする。思わずだらんと伸ばしているだけだった両の手を握りしめた。

「ね、ねぇ。これが!好きってことなのかな!!」

わたしは今まで気づかなかった感情に気づいてしまいそうで、早口で黒木くんに問いかけた。
しばらくの間、答えは返ってこなった。

「僕は大山田さんが好きだよ。」

黒木くんの声が静かな教室を切り裂くように響いた。
その言葉を聞いたとたん、わたしの胸は圧縮させられた気持ちを解き放ったらしく、爆発したように音をたてた。

「大山田さん。今の告白、聞いてどう思った?それが答えだよ。」
「…わた、わたし、わたし…黒木くん、わたし」

ゆっくり話してくれればいい、と言わんばかりに細められた目。
その目がわたしに向いていて、逸らされない。
わたしはなぜか安心して、口から緩やかに爆風のかけらを吐いた。
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