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君を待って、幸福

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冬休みだし、と夜更かししていたら三時をすぎていた。
窓から外を見たら、明かりがついている家はもう一軒もないようだ。
ああ、肌にも悪いし、もうそろそろ寝るかなぁ、と思って洗面台へ向かう時、携帯電話が鳴って出たら左門だった。
左門は私の家から十分ほど離れた場所に住んでいて、仲が良く、しょっちゅう一緒に遊ぶ。
こんな時間に何かと思えば今から迎えに行くから空を見よう!!だそうだ。
左門も夜更かししていたのかな、とか、今から!?とか、決断力が駄目な方向に・・・とか、色々頭の中を回っていたのだけど、もう寝たい事を最初に伝えようと思ったのに、左門私ね、まで言ったら通話を切られた。
左門の携帯に電話をかけてみると、何コールしても出ない。
断ろうと思ったのに、これはもう行くしかない、という事だろうか。
もしちゃんと左門が来て、用意が出来てなかったら多分怒るんだろう。
とりあえず洗面台に向かって顔を洗う。
この時期の水はやっぱり冷たい。でもお湯を出すのもなんだか面倒臭くて、そのまま水で洗う。
ぱっちりと目が覚めて、これなら出かけられるな、と思った。
洗面台は寒い。羽織ったカーディガンごと体を抱きしめる。
外はもっと寒いだろうに、左門大丈夫だろうか。方向音痴なのに、ちゃんと私の家までたどり着けるのだろうか。
もしかして、寒すぎて倒れたり・・・と、嫌な想像をしてしまう。嫌だな、なんだか作兵衛みたい。
自分の部屋に移動してから、化粧水と乳液をたっぷりと肌にしみこませて、うっすらと化粧。
この時間だから見えないかもしれないし、左門は化粧してもしてなくても気付かないけど、一応。
ちょっとでも可愛く見られたい、と思う。
服も着替えて、コートを玄関においておく。
時計を見ると、三時五十分。結構時間が経ったけど、左門が家に着くまで、まだまだ時間がかかるだろう。
夜明けが来て、夜空なんて見れないんじゃないだろうか。
ベッドにごろりと寝転んで、雑誌でもめくる。
でもなんだかワクワクとしてきて、ぜんぜん目に入らない。
この時間に会うのってなんだか特別、というか不思議な感じがする。嬉しい、かもしれない。
いやーでも左門だしな、恋愛のれの字も口から出てない左門だしな。
意識するのもなんだか恥ずかしいというか、慣れないというか。
雑誌から目をはなして、ごろごろする。時々窓から外を覗く。
だめだ、なんだかそわそわしてる。
もういいや、外で待とう。寒いけど、ちょっと我慢しよう。
コートを羽織って、マフラーもついでに巻いて。靴は、ヒールの低いブーツでいいかな。かばんはいつもの。
外に出て、きょろ、きょろとあたりを見る。
遠くで、新聞配達のバイクの音が聞こえる。
すぐに指先が冷たくなる。吐く息も白いし、家の中で待っていればよかったかも。
もしくは、探しに行った方がいいのかな?
でも入れ違いになっても困るし・・・。
空がとうとう白くなりはじめたけど、左門のような人はどこを見ても通らない。
電話、かけてみようかな。携帯電話をかばんから出して、あ。
向こう側の道路を、左門らしき人が乗った自転車が通った。
この時間だから、叫んでは居ないようだ。

「左門っ!!」

大きめの声で呼ぶと、自転車のスピードが遅くなったので、なんとか捕まえる事ができた。

「真帆!お前の家遠くなったなーっ!」
「普通育ったら近くなるものだと思うけど・・・」
「ははは!そうか?」

左門の後ろに乗る。左門はやっぱり方向音痴だから、目的地までは凄く時間がかかるだろう。
だけどそれでもいいと思う。左門は化粧に気付かないし、わざわざヒールの低いブーツをはいてる意味にも気付かないだろう。
左門の背中にくっついて、暖をとる。
自転車はゆっくりと動き出して、目に映る景色が変わっていく。
そういえば、荷台に乗るとお尻が痛いけど、今日は痛くない。何か敷物をしてくれたみたいだ。
ぽろっと言っただけなのに、良く覚えてるなぁ。
空はうっすらオレンジに色を変えて、朝日がちらちら遠くに見える。
指は冷え切ってるし、息は白いし、本当なら今すぐにでも家に入りたくなるはずだけど、つらくもなんともない。
どこを目指してるのかもわからない左門の背中は本当に温かくて、なんだか幸せだなぁ、と思いながら、ぎゅっと左門を抱きしめた。
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