ころころぱちん
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実技の授業中、突然日常は崩壊した。
先生の声、同級生の話し声、鳥の鳴く声。
ころりと転がるように視界はまわり、僕は引きちぎられるよう。
遠くで三郎の、僕を呼ぶ声が聞こえたような気がしたけど、それに答える事も出来ず、ころころと視界はまわる。
そしてぱちん、という感覚。その瞬間意識がはじけとぶように無くなった。
重たいまぶたをゆっくりと開ける。見たことも無い場所だ。
遠くには見た事も無いような家が見えるし、空からゴオー、という音がしたから空を見れば鳥ではない何かが飛んでいる。
森では無いようだし、こんな場所があるなんて聞いたことも無い。
塀で囲われていて、地面は芝生。木が規則正しく並んでいる。
ふ、と後ろを振り返ると遠くに見える家よりもずっと大きな家。
屋敷、と言ったほうが正しいかもしれない。
となるとここは庭なのか。
急いで出て行ったほうがいいか、ここはどこか屋敷の人に聞くべきか。
僕は攫われたのだろうか。いや攫われたにしては外傷も無いようだし、縛られても無いというのが不思議だ。
こんな不思議な場所は聞いたことないし、図書室に沢山あった本の中にもこんな場所は書かれてなかった。
空を音をたてて飛ぶあれはなんだろう。ゴオ、ゴオと聞こえる音は何だろう。
遠くから人の話し声が聞こえてくるから、人は居るはずだ。
でもここを不用意に動いていいのか?罠があるかもしれない。
動かない方がいいのかもしれない。でも動かないと場所を把握できない・・・
「あの、」
そこで声が聞こえた。近くからだ。声のするほうを見れば、小柄な女の子が立っている。
白くヒラヒラした布の上から、灰色の布を羽織っている。足元は赤い草履のようなもの。
一言でいうと、不思議な服装だ。
この人の呼びかけに答えていいものか、逃げた方がいいのか・・・。
腕を組みなおして、うーん、と頭をひねる。
「あの・・・」
女の子の声が聞こえる。でも僕は考えないといけない。
あんなにひらひらした体も守れなさそうな布しか着てないと言う事は、ここは安全なのだろうか。
いや、僕を油断させる作戦かもしれないし、近づかない方がいいかもしれない。
でもせめて人から何か聞かないことには何も分からない・・・
となると話をした方がい・・・
「あの!!」
女の子の突然出した大声にビクッ、と体が跳ねた。
いつの間にやら女の子は僕の3、4歩手前まで近づいてきていて、不安そうな顔をしている。
これはもう何か話すしかないな、と女の子をまっすぐ見る。
白い肌だなぁ、と思っていると恐る恐ると言った風に女の子が口を開く。
「・・・い、家入りませんか」
入っていいのか良くないのか考え出す前に背中を押されて屋敷に押し込まれてしまった。