僕は居ません
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
僕から見て彼女はただの人にしか見えない。
むしろ人以下にすら見える。
あとなんだか気持ち悪い。
でも彼から言わせれば、彼女は可憐ながらも大きな花らしい。
そうなんだ、と笑いながら本心では爪を噛む。
告白秒読みとまではいかなくとも、いい感じだったのに。
人というのは心変わりするものだ、わかっている。
花だという発言を聞いてから、僕はそっと彼から離れ、彼から見えない場所から弓さんを眺めるようになった。
出来る限り弓さんの行動パターン、しぐさ、性格、表情筋の動きなどを覚えるように。
部屋に戻ったら弓さんの真似事。
同室者には気持ちが悪いと言われたけれど、そんなのはどうでもいい。
自分でも気持ち悪くて、たまに吐き気がするけど。
あれが竹谷の好みならば、僕もそうなればいいだけじゃないか。
「弓さん可愛いな・・・」
教室の端から聞こえてくる竹谷の言葉にも嫉妬しなくなり、弓さんの真似事も板に付く。
ゆっくりゆっくり、萌木信二朗だった自分が消えていく。
彼はそんな私を見てないよう。
結局すぐに弓さんは消えた。というか、殺された。
大方自分の好きな子を盗られた奴が殺したのでしょう。
そしてやっと竹谷くんが私を見た。
萌木信二朗が消えた私を!
「あれ?」
「どうしたの?竹谷くん」
「いや・・・お前、そんなだった、か?」
戸惑ったように笑う竹谷くん。
あはは、と口に手を当て笑う。
人を見るときの少し甘えた目も、角度も、立ち方も全部完璧。
「何言ってるの、もう。」
「え・・・」
ぽかんとする竹谷くん。
何にぽかんとしているんだろう。
私には全く分からない。
「そうだぁ、今度の休み、一緒にどこかいこ!いい店なーい?」
「そ、そうだな、最近ゆっくり話もしてなかったからな・・・」
その言葉に私は満面の笑みを返す。
君のために花になった私を、もっと見て。
もうすぐ私はあの子の代わりの花を君に贈るよ!!