夢小説置き場 | ナノ

さようなら

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
どうやら私の好きな人は天女様の弓さんがお好きらしい。
いや好きだったらしい、というのが正しい。
だって弓さんが殺された今、日常に戻ってるもの。
弓さんが死んだのだと言う事を聞かされた瞬間を私も見ていた。
信二朗はへぇそうなんだ・・・で終わらせていた。
嘆きも悲しみもしなかった。
ザク、と墓の隅に鋤を突き立てて穴を掘る。
弓さんの墓穴を掘ることを命じられたのだ。
彼女のためだと思うとどうも気が乗らない。

「喜八郎、掘れてるか?」
「信二朗」

最近の弓さん弓さん言って、デレデレした顔じゃない。
前みたいなキリっとした顔。
私が好きだった顔。
ちらりと私の居る場所を見て、苦笑いする。

「すまないな、気が向かないだろ」
「うん」
「墓穴なんて誰も掘りたくないよなぁ」

信二朗が弓さんを好きだったから、というのもあるのだけど。
今掘れてる穴はまだまだ浅い。
夕方までには埋葬してしまいたい。
夜になるまで一緒に居たくないし。
信二朗となら一緒でもいいけど。
ザク、ザク。掘ってる間、信二朗はずっと私を見てる。
なんだか落ち着かない。穴掘りに熱中して、気にしないようにしても駄目みたい。

「他のとこみてて」
「あ、すまん」

また穴掘りに戻る。ここの土は固くて嫌だ。
夕暮れになるちょっと前、やっと人を埋めれそうな穴が出来た。

「じゃあ中に入れて」
「わかった」

後は埋めて、埋めて、埋めて。終わり。
手を合わせて目を閉じてみる。
さよなら。会話した事も無かったけど、私は貴方が大嫌いでした。
ずっと信二朗が、貴方を綺麗だ花だなんだかんだと言っていたのを思い出す。
目を開けて、地面を見下ろす。
仕上げの代わりに種を一粒。

「帰るか」
「うん」

そうだね、きっとここには、貴方以上に綺麗な花が咲くでしょう。
- ナノ -