まぁいいやで君を愛そう
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天から降って来た弓さんとやらが数日前に死んだらしい。
らしいというのは、その場面を見てないからだ。
でも死んだと言うのは確実にわかる。
殺されたという話をあちらこちらで聞くから。
あと、今ちらりと覗いた弓さんの部屋におびただしい血のあとと臭いが。
これは信じるしかない。
まぁ結局弓さんとはあんまり話さなかったし、顔もうろ覚えだし、関係はあんまりないな。
頬を染めて話しかける忍たまと弓さんは良く見かけたけど。
どうでもいいか、こんな事。
にしても弓さんの事好きだった人結構居たはずなのに、誰も泣いてない。不思議。
「お、おい!」
聞きなれたようなそうでもないような声。誰だっけ?
呼ばれてるの、俺じゃないよな。多分。
そのまま教室の方へ歩く。
「おい!・・・ッ、おいって!」
誰だよ、呼ばれてるの。早く気づいてやれよ。
とか思ってると肩をがっしりとつかまれて、振り向かされた。
「うわっ・・・えっと?」
「呼んでるのに・・・っ!」
そこには左近が居た。
わかれてから全然顔をあわせてなかった。
むしろ俺は忘れてた。
恋人になる前は親友だったっけ?
もはやどうでもいい事だけどね。
手をひっぱられて、近場の空き部屋に連れ込まれた。
「左近、何の用事?」
ちょっとびっくり。
涙のあととか、目が腫れてるとか、そんなの無いから。
弓さんの事で泣いてないんだ。
「違うんだ、あの・・・」
「何が?」
「ッ・・・違うんだ、僕は・・・僕は・・・」
顔が真っ赤だ。こんなに赤いの見たのはいつぶりだろう。
左近の目をぼんやりと見てたら、涙目になってうつむいた。
どうしたというんだ。
「どうしたの?」
「弓さんは・・・幻術で・・・違うんだ、惑わされてただけで・・・」
涙がこぼれてきたらしく、手で目をこすっている。
どうやら弓さんは幻術で左近や他の忍たまを惑わしていたらしい。
へーほーびっくりー。
だから皆泣いてないんだ。
「なるほど」
「・・・」
「納得した、ありがとう。じゃあ」
さて教室教室。授業はじまるじゃないか。
あ、左近も同じ教室だっけ。一緒に・・・行かなくてもいいか。
「ッ・・・!」
肩をまた掴まれた。なんだというんだ。
「何?」
「だ、だから・・・だから、そのごめ、ご、ごめん・・・」
「何が?」
「忘れてたの・・・あの、もう一回・・・僕と・・・」
なるほど。もう一回付き合って欲しいと、そういう。
正常に戻って俺に対する愛情が戻ってきたと、そんな感じか。
「ん、いいよ」
あっさり。俺が前に告白した時は、いっぱいいっぱいだったけど、もうそんな事はない。
「・・・!!」
安堵した表情の左近が、俺の顔を見る。
面白い顔してるなぁ。
ここで撫でるとか抱きしめるとかいうのが恋人かなーとも思うけどしなくてもいいよね?
「ぼ、僕・・・言ってなかったけど・・・信二朗を、その・・・あい、して・・・・・・」
聞こえるか聞こえないかぐらいの掠れた声だった。
そうかそうか、お前は俺を愛してるんだね、わかったよ。
まぁ俺はもうお前を愛してはいないけどね。
あったのかどうか分からない、友情さえも消えたみたいだけど。
まぁいいや。
「俺も、愛してるよ」