水 初詣に来た俺たちの目に、左右両側に赤や黄色のビニールに色とりどりに書かれた文字が入ってきた。 冷たい風と共に、いい匂いをさせる煙が人の流れに沿って流れてくる。 飴の甘い匂い、肉の焼ける匂い、色んな匂いに釣られて、人ごみの中をあっちへふらふら、こっちへふらふら。 見失わないようにと、そんな奴に付き合う俺の頭も、人に酔ったからなのか、甘い匂いにやられたのか、くらくらしてくる。 さっき、蕎麦をうまそうに食っていたくせに、りんご飴に牛串、フランクフルトに焼きとうもろこし、食べ物と呼ばれるものを扱う出店のほとんどで買っていく。 一つずつ買っては、一口食べて、俺の前に突き出す。 「おいしいよ。一口、食べる?」 最初のうちは、付き合って一口ずつ食べていたが、いい加減口の中が、何味なんだとべたべたになった。 そこで、「もう、良い」と言えば、尻尾がうな垂れるのが見える気がする… 犬なんて可愛い生き物ではないけれど、それでも放っておくことはできず、突き出された、イカ焼きに噛り付いた。 口の中をすっきりしたくて、明らかにコンビニの方が安い水を買う。一口飲んで、さっぱりとした俺を見上げる目が二つ… 「一口飲むか?」 「うん」 と言っては手を出して、俺から水を受け取る。 ぷは〜っと一口で、半分ほど飲み干したこいつも、 実は口の中が大変なことになっていたのではないのか?という疑問がわいてくる。 なぜ、そんなことをするのか?と思ったけれど、基本が食いしん坊なのだろうという結論に達した俺の耳に、 「あ!全部飲んじった…えへっ」 という声が聞こえてきた… えへっじゃねぇよ!!! [*前] | [次#] ≪戻る≫ |