目玉焼き 2 何で? いつから? あいつが? 俺を……… す、き???? いやいや、待て待て。落ち着け俺。 いや、 でも 思い返せば… 高校の頃から一緒で、だけど、確かに… 一口ちょうだいと言ってくるのは俺だけだと、他のやつらが言ってた。 アイスもせんべいも… 大晦日にそば食ってたときに見せた恥じらいは? その後も何の気無しにか、かかかかん、間接キッスで水飲んでたし、 コンビニでも俺の好きなチョコを買ってた。 風邪引いたときもレトルトじゃなくて俺の作ったのが食いたいって言った… まぁ、その後俺の人生史上最高にまずいラーメン作ってくれたっけ。 あれはいただけない。 だけど…生活能力が極端に備わってないあいつがそれでも作ってやろうと思った気持ちは? あ!でも、豆まきで散々な目に合わされたな…やっぱ違うか… いやいや、待て!俺! バレンタインデーにはチョコ貰ったよなぁ。 かつどんだって、俺が辛いのが好きだって知ってたのに食いやがったし… ひなまつ…り… キス……したんだよな。あいつ気づいてたよなぁ… そもそも俺はあの時なんでキスなんてしてしまったんだ? あぁぁぁ、かつどん屋のバイト! そういや最近、聞かねぇなぁ。まぁ俺の敵ではないってことか。ははは。 いや…密かにまだメールとかしてんのかもしんない。 そういう女の影、じゃねぇけど、いたことねぇからわかんねぇなぁ…… あれ? あいつ、彼女とか彼氏?とかいたことあったか? え? 記憶にないんだけど… 「おい!!!」 「ん?」 「ん?じゃねぇよ!焦げてる!焦げてる!」 「え?!うわっ!あつ!」 急いで掴んだ蓋の取っ手にジリリと指先に痛みが走る。 濡らした雑巾で掴み直し、開けたところに煙が上がる。 煙が引けてやっと見えてきた黄色と白の目玉焼きの周りは黒く縁取られていた。 「あちゃ〜…久々にやったな」 「何で目の前にいるのに焦がす訳?」 「…ん?何でだろうな…ははは」 お前の事考えてたとか言えないだろ! 「手!」 「は?」 「火傷しただろ。手、出して!」 それでもボケっとしている俺の手を取り、水道の蛇口を捻ってそこに持っていく。 冷たい水にさらされた指先から、徐々に思考が正常に戻ってくるような気がした。 腕を掴まれたまま、二人して蛇口から流れ出る水を見つめた。 「なぁ?」 「ん?」 「何で最近、目玉焼きばっかなんだよ?」 そう来たか…う〜ん 伝わるか? 顔は上げない。だけど、水道に当ててない方の手で奴の手を掴んだ。 ぎゅっと握る。 はぁと一息吐き出して、 「俺も結構、黄身が好きだからな」 言った!俺言ったよ!!! 「そうか!」 喜んだ声が聞こえ、パッと上げた顔に満面の笑み!!! 「そういうのは早く言えよ!」 「そうだよな。言うのが遅かったよな…」 やった!俺、やったよ! 「そうそう」 そういって掴んだ手を払われる。 え? 「お前火傷したし…俺様特製の目玉焼きを作ってやるよ!待ってろよ!」 「い、いやっ!」 違う!卵の黄身じゃねぇよ!気づけよバカ!!! 冷蔵庫を開ける奴の背中に言った言葉は、ショックのあまり声になっていなかった。 30分後に出てきた目玉焼きを目の前に、食わないわけにもかない。 目玉のない目玉焼きは、俺の焦がした目玉焼き以上に縁が黒くなっていて、 このまま食うにはかなりの勇気がいる。 だから、お好み焼き風にソースとマヨネーズをつけた。 うん。ソースとマヨネーズに香ばしさがプラスされた味だ。 だけど、今の俺の心のようにじゃりじゃりとした食感とほんのちょっとほろ苦い。 切ねぇなぁ、ちくしょう! [*前] | [次#] ≪戻る≫ |