餃子 「うっげーまた破れた…」 「もう、ひだつけなくて良いから、とりあえずひっつけとけよ」 「えーーー!ひだひだのない餃子なんて餃子じゃないよ…」 「餃子は餃子だ。ひだがあろうがなかろうが、餃子には違いない」 「いいえ!ひだひだのない餃子なんて餃子じゃありません!」 「じゃあなんだよ?」 「うっ…それを言われると困るな……包んだ肉団子?」 「何だそれ?もう、餃子でいいじゃねぇか…」 昨日鍋をした残りの白菜をどうしようか?と思っていたときに、何の前触れもなくうちにこいつが来た。 手に白菜を持ったままドアを開ければ、手にした白菜を見つめながら、 「餃子が食いたい」 そう呟き、ねえちゃんに電話をし、作り方を聞き、結局作るはめになっている。 ひき肉がないからと買いに行って、戻った後に気がついた。 買って食うなり、どこかで食うなりすれば良かったと。 具材を細かく切って混ぜるまでは良かった。 だけど、いざ包むとなると、俺はそこそこ出来たものの、やっぱりというか、期待を裏切らないと言うか… 不器用さ加減に怒りを通り越して、呆れた。 それでも不恰好な餃子は30個ほど出来た。時間は3時間ほどかかってしまったけれど。 容姿に似合わない癖のある字で書かれたメモを見ながら、フライパンの用意をする。 熱したフライパンにごま油とサラダ油を入れ、綺麗に並べたら、それなりに見えた。 焼き目を確認して、片栗粉を溶いた湯を流し入れ蓋をする。 え?何でごま油や片栗粉があるかって? そりゃあ、まあ、前の彼女が買ってそのままになってたんだ…メモリアル的な何かだよ! ジュージューと焼ける音がするけれど、水気がなくなるまでは少し放置。 その間もキッチンと部屋を行ったり来たりしていたそいつが、蓋を開けたり置いたりしながら、 明日は晴れるかなぁ的な言い方で、 「なぁ、この間さぁ、」 「うん」 「ひな祭りの日」 「…ああ」 「俺にキスした?」 ……… 「なぁ?」 「…ん?何で?」 「されたような気がするんだけど?」 「お!出来たか!」 誤魔化すために慌てて蓋を開け、焼き具合を確かめる俺に、何か不信を抱くだろうか?と思ったけれど、 「おお!俺の作った餃子!」 あっぶねー!!!びっくりするだろうが! 冷凍庫から勝手にご飯を取り出し、レンジで温めているこいつを意識しつつ、 俺は冷蔵庫からビールを取り出す。 酢と醤油、ラー油を小皿に入れ、テーブルに持って来た。 また蒸し返されるだろうか?そんな危険と隣り合わせで、 ドキドキしながら食べたから味なんてわかりゃしない。 だけど隣で 「うっまー!」 と連発するから、美味しかったんだろうなぁという事はわかった。 また聞かれたら今度こそ誤魔化すことなんて出来ないだろうな…そう思うと進むのはビールで、 ぐいぐいと飲んでいると変な緊張からか結構な量を飲んでいた。 「うわっ!」 食い終わって、片づけをしようと立ち上がりかけたとき、足に力が入らず、グラっと傾く。 慌てたそいつが支えてくれたけれど、間に合わず、俺はそいつの上に重なるような形で倒れてしまった。 「ってー…」 体を起こしかけてふと目線に気がついた。 真っ赤な顔で俺を見る視線は熱い――― 誘われるようにゆっくりと顔を落とす。 息が触れ合う距離まで来て、 「にんにく臭い」 そう一言言い残し、あっけにとられたままでいる俺をどかし、 がちゃがちゃとキッチンへ急いで食器を持っていく。 今、俺何しようとした!? キスしようとしなかったか!? あいつが起きてたのに? 酔った頭で必死に考えている俺には、 「うぎゃーまたビスケットになった!」 と騒ぐ奴の声は聞こえていなかった。 [*前] | [次#] ≪戻る≫ |