ひなあられ




「お前、何味が好き?」

「俺、しょうゆ。お前は?」

「俺は、マヨネーズゥ!」

「ほれ!」

「やった!」

今日は3月3日 ひな祭り…男2人でひな祭りもないが、
知り合いから「かわいいからあげる!」と言われたと袋にいっぱい入ったひなあられを持ち、
満面の笑みで奴が家にやってきたのが10分ほど前。

ふと山積みにされた袋の中身を見れば、一つだけ毛色の違うものがあった。
色とりどりのあられを入れた袋が大半なのに、その一つは白っぽい色だけである。
ひょいっと摘み上げて、

「これもひなあられ?」

「そう。それは関東バージョン!」

「は?関東と関西じゃ違うわけ?」

「違うんだよ〜」

「どう違うんだよ?」

「関西は色がいっぱいあったりぃ、味がいっぱいあったりするけど、関東のは甘いのぉ」

バカなこいつがそんなことを知っていたことに驚いた。説明はいまいちわからないけど…
だけど、びっくりしたと言わんばかりに目をぱちくりさせてそいつを見れば、

「何?俺がお前より物事を知ってるって事にびっくりしてるわけ?」

コクンと素直に頷けば、

「ふふふ。本当は、かつどん屋の子がくれたんだぁ。おばあちゃんが関東に住んでて、お姉ちゃんに送ってきたのをどうしても俺に食べさせたい!ってくれたんだよぉ。嬉しいでしょ?」

何を気にするでもなくしれっと言う。
あのかつどん屋のバイトか。最近メアドも交換しやがったし…ちくしょー…

「なんでもかんでも貰って来るな!」

腹がたったので勢いのままに言い放てば、

「いいじゃん。くれるって言うんだから貰っとけば。この間なんか、かつどんの一杯無料券くれた!」

……嬉しそうに言いやがる。

あ〜あ、面白くねぇな〜。
と、ひなあられを掴んで一気に口の中に入れる。
いろんな味が広がった。
塩、しょうゆ、青海苔、えび、マヨネーズ。
なんか、こうやって食べるのも久しぶりだな…と思っていると、

「ジャジャーン!白酒も持って来た!」

「えぇ…普通に酒が良かった」

「何言ってんの!今日はひな祭りなんだから、白酒に決まってんでしょ!」

白くて、どろっとした液体の入ったカップを目の前に持って来る。
紙コップまで持参かよ。
渋々と受け取れば、

「ひなまつり、ばんざ〜い!」

乾杯をして、一気に飲みやがった。

仕方がない…俺も一口…

「っあま!」

こんなの飲めない…と俺も一気に飲み干し、口直しだと、
冷蔵庫からビールを持ってきて見れば、


すぴー すぴー


ソファにもたれて寝息を立ててやがる!
早!即寝かよ!!

酒が弱いのは知ってるけど、ここまでとは…
逆に感心するよ。うん。

ビールの栓をプシュっと開けて、隣に座り込んだ。
急に静かになった部屋の中には、テレビの声がやたらと大きく聞こえる。
なのに…、

「…もう、食べられないよ、かつどんは…むにゃむにゃ…」

小さな小さな寝言は聞き逃さなかった。

そうかよ!夢にもあのバイト君が出てくるのかよ…

そう思うとやっぱり腹が立つ!

手に持っていた350mlの缶ビールをぐいっと飲み干し、缶をテーブルの上に置く。
体を起こして奴の顔を覗き込み、体の両側に手を置いた。
寝息が頬に触れるほど近づけると、かすかに白酒の甘い匂いがした。




「お前が悪いんだからな…」

そう言って、俺は、そいつの唇に―――









キスをした







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