かつどん




「ちょっ!あ!あ!もう〜!!」

「…何だよ?」

「そんなにかけないで…」

「…なんで?」

「後で、一口貰おうと思ってたのにぃ…」

「俺が頼んだものをおいしく頂くのに、なんでお前の意見を聞かなきゃならない?」

「…だって、そっちもおいしそうだったんだもん!」

ふと、視線を感じ、見上げたそこには明らかに苦い笑いを浮かべた高校生のバイトの男の子で、
気まずくて俺が目をそらせば、今度は視界にぷくっとほっぺを膨らませた奴の顔。

いい年してもんじゃねぇよ、もんじゃ…

目の前には、さくっと揚げたとんかつを半熟の卵で閉じた、かつどん。
彩りにのせられた三つ葉がゆらゆらと白い湯気に揺れていた。
そこに、今しがたかけた赤い小さな粒が見える。七味。
辛いのが大好きな俺は、結構たくさんかける。
だけど…

こいつが辛いものが食べられないのは良く知っているし、
カレーだって王子様のカレーをこよなく愛していることも知っている。

「あ!ここ、かかってないよね?かかってないでしょ?」

と、どんぶりの縁を指差して嬉しそうに叫ぶ。

やめてくれ。深夜とはいえ、他にも客はいるんだぞ!

と心の中で突っ込んだところで、声に出さない限り、そいつには絶対に聞こえない。

「はぁぁぁぁ〜」

肺の中に入っていた空気を搾り出すようにしてついっとどんぶりをそいつの前に差し出す。

端の方の一切れを摘んで食べた瞬間、ぱりっと音を立て、目を閉じて至福のときを味わっている。
俺が甘いのか、こいつが最近やりたい放題なのか…

思いを巡らしたところで、答えを出そうとする脳は拒絶をした。

こんなに幸せそうに食べているのならそれはそれで良いではないか…。

と何の気なしにやつの頼んだ新メニューのカレーかつどんを引き寄せる。
卵とじをしたかつどんにカレーをかけたそれは、カツカレーと何が違う?と思って一切れを摘もうとしたとき、

「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!水!水!」

と目の前で叫びだす。

「ほら!」

と俺が水を差し出すのと同時に、さっき苦い顔をした高校生男子も勢い良く飛んで来て水の入ったコップを出す。


一瞬、俺と高校生男子の間にバチバチ!っと火花が散った  …気がした。

奴が取ったのは俺の差し出した水。それを一気に煽る。
ふふんと勝ち誇った顔をして、高校生男子を見れば今度は痛そうに顔を歪めている。

どうだ!と思ったら、今度は高校生の水を取って、同じように一気に飲み干す。

高校生男子に勝ち誇った笑みを返され、チクショーと思い、目を奴に向ければ、

「辛かった〜。まだちょっと舌がぴりぴりするけど…」

と言って舌をべろっと出してパタパタと仰ぐ。

高校生男子の前でエロイ仕草してんじゃねぇよ!

「大丈夫っすか?水、まだ持ってきましょうか?」

と今時っぽいしゃべりの声が上から聞こえ、

「ううん、もういいよ!ありがとう!」

と笑みを浮かべて答えるこいつに面白くないと感情が頭をもたげる。

「そっすか。何かあったら、俺、呼んでください。」

と、俺の部分を強調した。最後に俺に何かを含んだ目線を投げつけて、高校生男子は厨房の中へと消えていく。

「さあ!食べるぞー!!」

と、カレーかつどんを食べ始めるそいつに習って、俺も自分のかつどんをたいらげる。

10分もしないうちに食べ終わり、レジに行けば、またしても高校生男子で、気分が悪い。

「俺が奢るから!」

「え?いいの?ありがとう!ごっちそうさっま〜♪」

そこですかさず、出て行こうとした奴に高校生男子が、

「あ!これ、クーポン券っす。絶対にまた来てください!俺、平日のこの時間は入ってるんで…」

金を払う俺ではなく、そいつに渡す。

言われた金額を払い、釣りを受け取るときに、

「俺、負けませんから…」

聞こえた声に殺意さえ覚える。

熱く燃えたのは、生意気な高校生男子に対してなのか、はたまた、奴に対するごにょごにょな感情なのか…




何だよ〜!!!ごにょごにょな感情ってーーーー!!!







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