欲情と愛情の狭間で… 1



夕暮れの教室に赤い光が入りだし、小椋と二人で教室にいた。

野球の成績で早々に推薦入学を決めた田中と、専門学校に行く山下と岩田。
その3人は既に帰ってしまった。

真の受験生と言えるのは俺と小椋だけで、塾に行くまでの間、こうやって放課後に残って勉強をしだしてから、もう二ヶ月。
そこそこの出来の俺とは違い、小椋は学年でもトップクラスだった。

「……その問題がわからないのか?」

優しく聞いてくれるこの声は嫌いじゃない。
だけど……好きでもなかった。

「あ……うん。数学苦手なんだよな……」

「竹中は完璧に文系だもんな。えっと、これは、この公式を使って……」

俺のために教科書や参考書をめくる小椋も、勉強をしなければならないのではないのか?と思い、

「……いいよ、ありがと。自分で調べるよ。小椋は自分のことしてよ。本当にわからなくなったら聞くから」

聞いた言葉に一瞬目を張ってから、

「わかった。わからなくなったら聞けよ」

そう薄い笑いを貼り付けて答え、目を、目の前の問題に移した。






今はその目が…

「竹中のここ。こんなになってるけど、それでも、欲しくない?」

鋭く尖るような形になりとろとろと蜜を流す俺自身に向けられている。
根元をグッと押さえる指の力が更に増し、吐き出したい欲望と吐き出せない失望を同時に与えていた。

「ほら、言えよ。欲しいって」

耳の横で紡がれる言葉はひどく掠れて、色香を漂わせる。
遠のきだした理性を必死に繋ぎとめ、唇を強く噛んだ。

「そんなに噛んだら、血が出るよ。それとも……そっちの方が燃える?」

「……ぁ……ああっ!」

先端をぐりっと爪で引っかかれ、その快感にもれた声を合図にして、後ろに指が入って来た。

少し前に散々弄ばれ、ローションと自分の出した粘液で既にとろとろになったそこは、すんなりと指を受け入れる。
何年も…何度も重ねた体は知らないところなんて一つもない。
良いとこばかりを弄られ、翻弄され、その快感を逃がす術なんて、小椋の手にかかれば元々なくて、
存在しないのだという期待と失望で、ぎゅっと目を閉じた。

岩田に会ったことは言ってない。
だけど、今日の小椋は、いつもと少し違う……
いや、俺が違うんだ。

「ほら……早く言え…っていうか、俺が限界……」

促される声がまるで催眠術にかかったように催促する。
だから、あの時と同じように俺は、

「…い、れて…」

「ん?何?聞こえなかったけど?」

「…いれて」

望んだ言葉を二度も言わせたくせに、焦らすように良いところをずらした指の動きを繰り返す。
焦れったくて、腰を動かせば、

「はは。しょうがないなぁ」

と言って、熱いものがゆっくりゆっくりと入ってくる。
まるで何かを察知して、その形を覚えておけと言わんがばかりに―……




掌の中でパラパラとめくられる参考書の真ん中あたりに、やっと見つけ出した公式に嬉々として問題を解こうとした俺の耳に、

「なぁ……竹中。勉強してると、時々無性にむしゃくしゃしないか?」

問いかけてきた言葉の意味はよくわかる。

「あ、うん。時々ね」

「だろ?」

参考書から上げた目で見えた小椋の顔が、ひどく妖艶に見えたのは、夕焼けに染まる赤を俺が背負っているから。
そっと寄ってきた顔が俺の影で暗くなる。
思っていた以上に近寄ってきたことにびっくりして後ろに逃げようとすれば、机の上でシャーペンを握っていた俺の手を手首ごと掴んだ。

合わせた視線の小椋の目が、逃げることを許さないと強い意思を滲ませる。

「だから……何かを壊したい……って思わないか?」

足元から這い上がるようにやってきた震えが、静かに静かに全身に回っていく。
捉えられた小椋の目に滲みに滲んで溢れだしたものが、掴まれた手首からどんどん俺の中に入り込んでくる。

逃げることはきっと出来た。
だけど、それをしなかったのは、きっと俺も何かを壊したいって思っていたから…










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