再会と出会い 3



「は?何、言ってんだよ…そんな風に思ってたのか?」

うっすらと笑みを浮かべながら、答えれば、

「へ?」

と間抜けな声をあげ、岩田は大きくもない細い目をぱちくりとさせた。
その顔がおかしくて、ぷっと吹き出せば、

「いや…だって…あの時お前、何にも言わずに消えやがっただろ!?」

そうだ。何も言わなかった。どこの大学に行くのかも、何をするのかも…

「そうだっけ?言ったような気もするけどな……」

とぼけて見せる。

「…はぁ〜、言ってないし。俺、すっげぇ探したのに…誰もお前の居場所を知ってる奴はいなかったし」

すっげぇ探したのに…の言葉にあの頃の淡く甘い感情がゆっくりと頭を持ち上げてくる。
と同時に、足元を掬われ、恐怖して逃げ出すことが出来なかった夕暮れの教室。
確かに季節は冬の真っ只中だったが、その時の光景を思いかべれば、
寒さとは違った意味での震えが蘇る…



図書室で初めて話して以来、気になって仕方なかった俺は、岩田が廊下ではしゃいでいたところを通りかかり、
一緒にはしゃいでいた連れが「何やってんだよ〜岩田!」と言ったときに初めて彼の名前を知った。

高校3年生になり、貼りだされたクラス表を見たとき、自分のクラスの一番最初にあった
「岩田直也」
という名前に、心臓の辺りがぎゅーと捕まれたような気になった。
だけど、油断してはならない。
この感情は、気持ち悪いと思われこそすれ、喜んで受け入れてもらえるような感情ではないのだから…

教室に入った俺は、出席番号順に指定された自分の席に座った。
鞄の中から読みかけにしていた文庫本を取り出す。
だけど、まったく内容は入っては来ず、つらつらと文字の上を視線だけが滑る。
意識は完全に、前と後ろの教室の入り口にあって、寝不足覚悟で昨日読んでいたところは、
今は文字の羅列で、どうかすれば模様にしか見えなかった。

階段の方から大きな声で話す岩田の声が、徐々に聞こえてきだすと、それと一緒に俺の心臓もトクントクンと動き出す。
廊下での会話の勢いそのままに、

「岩田直也です!一年間、よろしくっす!」

そう言って教室に入ってくれば、いくつかのグループに分かれて話をしていた他のクラスメート達も、各々に、

「おー岩田かぁ、こっちこそよろしくな!」
「岩田くん、またよろしくね。」

という声が聞こえた。

俺のことなんて覚えてないだろうと思っていたから、本から顔を上げずに、それでも意識だけを岩田に持っていけば、足音が近づいてくるような気がした。
と思ったら、机の横に座り込んだ。下から見上げてくるのにつられて、視線を動かせば、

「竹中、よろしくな!」

大きくない細い目が、更に細くなり、三日月の形になる。

「…う、うん」

今できる精一杯で返せば、

「おー、何読んでんだ?」

手の中にある文庫本を指差す。
皆に注目されているんじゃないのかと冷や冷やして、周りを見渡せば、誰も自分達のことを見ていなかった。
ホッとして、

「…好きな作家がいて…その人の新作なんだ…」

と言えば、

「そっか…俺、本はあんまり読まないだよな…何か面白いのあったら、教えてくれよ。ミステリーとかなら読んでみたい」

そう言って、また目を細くして、三日月の形にした。



信じられないけれど、その目が今は隣にあるんだ―…







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