再会と出会い 2 降っている雨が屋根に当たって、雨どいを伝い、ぴちゃぴちゃと地面に落ちている音が遠くに聞こえる。 薄暗いここに縮こまって、動けない俺の頭から、ゆっくりと手が離れた。 「びっくりさせる気は無かったんだけど…」 うんと頷く。 「いっつも本を読んでるよな?」 また、うんと頷く。え?何で本を読んでるのを知ってる?だけど、考えている間に、 「面白い?」 と聞かれ、また、うんと頷く。 「そっか…」 雨の音は聞こえず、代わりに心臓の音が響いてる気がする。 体中の汗腺から汗がじわ〜っと出てくる感覚。 顔に血液が集中して、暑くもない季節なのに、急に体温が上昇した気がした。 いや、上がってる。確実に。 「あ!やべ…帰る約束してたんだ。じゃあな、竹中」 俯いたままの耳に聞こえてきた声に、びっくりして見上げると、 「名前くらい知ってるつーの!じゃあな!」 と言って、小走りに駆けて行った。 俺は、そいつの名前すら知らなかった。クラスの奴じゃない。 だけど、上がった体温と、心臓のどくどくという音に、しばらくそうして動けなかった。 これは、人に触れられたのが久しぶりだったから… そう自分に言い聞かせた。 ◇◆◇◆◇◆◇ 「竹、中?」 合った目線のそいつは、あの頃よりも精悍な顔つきに過ぎた年月を物語っていた。 動揺したことを悟られないようにゆっくり足を踏み出す。 「ああ、久しぶり。岩田」 乗り込んだ電車が動き出す。 ガタン、ガタンと線路の継ぎ目を通るたびに揺れる車体は、まばらにしか人を乗せていない。 隣に座ろうかどうしようかと迷っていると、 「座れよ!懐かしいなぁ〜!」 と、破顔した。その笑顔があの頃と同じで、また、どきどきと血液を流しだす。 横に並んでさらに気づく。あの頃よりも、大きくなった体。長くなった腕と足。 記憶の中の岩田は高校生のまま。 「元気だったか?」 「ああ、岩田も元気だったのか?」 「ああ」 もし、会うことがあったなら、あんなことやこんなことを話そうと思っていた。 だけど、ここを遠く離れた俺は、そんなことは有り得ないと思い、その考えに蓋をした。 あまりにも経ちすぎてしまった月日に、開けた蓋の中には、干からびてしまって、解読不可能なものばかり… お互いに気まずい。 電車の音だけが響く車内。ガタン、ガタンと揺れる。 「……どうして、あの時、何も言わずにいなくなった…?」 気まずい沈黙を破った岩田が、いきなりの核心を突いてくる。 横に顔を向ければ、真剣で、どこか痛みを負っているようにさえ見える。 それは、俺の願望なのかもしれない。 自分勝手な行動であったにも関わらず、俺と同じように、岩田も痛みを負っていて欲しい、 そう願わずにはいられなかったから。 [*前] | [次#] ≪戻る≫ |