再会と出会い 1


久しぶりに実家に帰って来ていた。

瀬戸内独特の春の霞のかかった景色。
日の当たる駅のホームは、ぽかぽかとして、心地の良い空気をはらんでいた。
一時間に一本しかない電車がホームにキキーとブレーキの音をさせながら、滑り込んでくる。
座っていたベンチから腰を上げ、肩にバッグをかけながら、2両しかない電車の前側の扉が開くのを待つ。

春の匂いを纏った風が、俺と電車の間を駆け抜ける

開いた瞬間に目があった彼は、俺の高校の同級生だった――













自分の性癖に気づいたのは中学校の3年のとき。
性に興味を持ち始め、色々な本が教室の角で取引されていた。
いい!いらない!と断る俺の手に無理矢理押し込められたその一冊を持ち帰り、
興味半分に開いてみれば、裸体でなまめかしいポーズを取る女よりも、
絡んでいる男の方に欲情し、必死で手を動かし、果てた後に何とも言えない感情に苛まれ、志望していた男子校を、共学に変更したほどショックだった。

知られてはいけない。これは、普通ではないんだ。もし知られれば…

そう思うと、人と一緒に居ることが恐くなった。
だから、俺は、1人でいた。

人を寄せ付けないオーラを纏って…

休み時間には図書室に行き、本を読み漁る。
図書室にいけないときは、持っている本を読む。
教室の中で俺に話しかける奴なんて、誰一人としていなかった。



雨の日の暗い図書室の窓際で、立ったまま本棚に背を預けていつものように本を読んでいた。
推理小説のその本の犯人が誰だか必死になっていて、近くに誰かが近寄って来ていたことに気づかなかった。

「それ、面白い?」

そう言って声を掛けられても自分の事だとは思わなかった。
誰も俺の存在を気にしない。
だから、肩に手を置かれたときに、

「う、うわぁ!!!」
「えぇぇ?!」

と静かな図書室に俺の叫び声と彼のびっくりした声が響き渡った。

「静かに!」

司書の厳しく咎める声が聞こえ、

「しー!」

と口の前に一本の指を持って来ている男の顔が近づいた。

慌てて逃げようとした俺の後頭部に硬い本棚がごんっとぶつかる。

「ーーーっ!」

声には出さず、本を持たない方の手で後頭部を押さえしゃがみこんだ俺に、

「ごめん!大丈夫?びっくりさせちゃったな」

と小さな声を出しながら、俺の手をどけ、後頭部にふわっとぶつけたところを確かめるように
髪をわける感触を感じた。

「あぁぁ、たんこぶになっちゃたな、ホントごめん」

小さな囁くような声になのか、後頭部にあてられた優しい手になのか、わからない。
目をぎゅっとつぶって、胸のドキドキが早く収まるように願った。


離れた手の暖かさを意識しながら、目を薄く開けて上を見れば、バツの悪そうな顔がそこにあった。

「…ごめん」

「あ、いや、……ちょっとびっくりしただけだから」

「そっか……」

早く離れて欲しかった。これ以上、俺に関わらないで欲しかった――







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