欲情と愛情の狭間で… 5



酔っ払って乱れた小椋というものを初めて見た。

電話をしても出ることのなかった小椋が、深夜にいきなり部屋にやってきた。
激しく鳴るインターホンに誰だ?と思ったのも一時で、恐いけれど対応してみれば、酷く酒に酔った小椋だった。

開けたドアから春の夜の冷気と一緒に、過剰に摂取されたアルコールの匂いが鼻をついた。
1Kの部屋だから、リビングなんてものはない。
置いているシングルベッドに凭れかけるように小椋を座らせた。

「大丈夫か?」

俺の問いに、うんうんと何度も頷くけれど、大丈夫でないことは明らかだった。
酔っ払い自体の介抱は何度もしたことがある。
けれど、小椋のこういった姿は初めてで、会社の同僚や部下などと同じようにすれば良いと思うのに、
思考はどこか焦ってしまい、何をすれば良いのだろうか?と一瞬体が動かなかった。

「……水」

言われて、そうだ、そうだ、水と思う。
塩水かレモン水が良いんだったよな。
とキッチンに行きながら思うが、男の1人暮らしにレモンなんてものが常備されていることの方が稀で、
コップに塩を入れて冷蔵庫からペットボトルを取り出し、注ぎ、箸でかき混ぜた。

持っていく間に、夢の中に入って行きそうな小椋の肩を揺すって水を飲ませる。
が、うまく水が飲み込まれず、顎を伝って、高級そうなシャツを濡らした。

「頼むよ小椋……きちんと飲んで……」

聞こえないだろうと思っていたのに、聞こえていたようで、アルコールで赤くなった頬に、潤んだ瞳で、言われた言葉に心臓がドクリと疼いた。

「……飲ませてよ、純」

純と呼ばれたことはなかった。いつも竹中で、純と呼ぶのは家族ぐらいだった。

「じゃ、じゃあ、ちゃんとコップ持って……」

小椋の手を取り、コップを持たせようとしても、きちんと握ってくれない。

「ほら……」

何度挑戦しても持ってはくれず、どうしようか……と思い、口の中に含み、小椋の横に膝立ちになる。
思ったよりも塩辛いその水を含んだまま、小椋の顎を引き上げる。
合わせた唇の隙間から流しこみ、小椋の喉がゴクンと動くのを確認して、唇を離した。
それを3回繰り返し、これだけじゃ足りないよな…と思い、またキッチンに行こうとして、立ちかけた俺の腰に、
小椋が抱きついて来た。

「……行かないで」

酷く弱々しく聞こえるのは何故だろう?

「水、持ってくるだけだから」

「いい……もう、いらない。だから……行くな……」

涙こそ浮かべてはないだろうけれど、泣いているような声だった。

急に小椋が小さな子供のような気がして、可愛く思えた。
腰に回された腕がぎゅうぎゅうと締めつけてくる。
整髪料できちんと整えられた髪に手を持っていくと、思ったよりも柔らかい感触がした。
腹に顔を埋める小椋の頭を数度撫でていると、愛しさが募るような気がした。
何年も何度も肌を重ねることはあっても、こういう風に触れ合うことはなかった。
求められている欲が、いつもは淡々としていて、それは体だけの欲望を放出するためのように思えたから。

だけど……ひょっとしたら、きちんと気持ちの部分でも求められていたのかもしれない…

そう思うと、今まで見向きもしなかった小椋の気持ちに対して申し訳ない気持ちと同時に、
愛しいと思う気持ちが出てきた。

「……小椋?」

声を掛けると、腹から顔を離し、上を見上げてくる。
その顔を両手で挟むと、瞳はやっぱり潤んでいて、頬も赤いままだった。
それに吸い寄せられるように、唇を寄せた。
触れた唇からは、アルコールの匂いがする。
離れる度に角度を変え、また口付ける。
そうするとアルコールの匂いが薄くなったような気がした。
繰り返すうちに、捉えた舌が絡んで、深い口付けに変わる。
そうしていると、腰の奥がズクリと疼いた。

キスをしながら、小椋の服を脱がせた。
ズボンに手を掛けたところで、

「……勃たない気がする」

何となくそう思ったけれど、無視して、ズボンの前をくつろげた。
いつもならシャワーも浴びずにこういうことはしない。
だけど、今日は小椋を感じたかった。
今まで気づかなくて悪かったと思った罪悪感からかもしれない。
下着から引きずり出したものを躊躇なく銜えた。
刺激を与えていると、それが硬度を持っていくのがわかった。
先端に舌を這わせると、鼻から抜けるような吐息が聞こえた。
感じてくれているんだと思うと我慢が出来なくなった。

一度口から離し、早急に自分の服を脱いだ。
小椋の高そうなズボンが汚れるから、小椋の協力もあって、何とかズボンと下着を脱がし、
もう一度銜え、口に含んだまま自分で自分の後ろを指で馴らし、小椋に跨った。

意図を察した小椋が、腰に腕を巻きつけてくる。

「……いかないかもしれないぞ」

「いい」

そういって、腰を下ろすと、熱いものが入ってくる感触を感じた。
いつもより感じていると思うのは、小椋を愛しいと思っているからだろうか?
初めて自分から求めた。
その興奮もあって、先に弾けた自分の白濁が小椋と俺の腹を濡らした。
イかなかいかも…と言っていた小椋の熱を体の奥に感じても、呼吸が整って熱が冷めても、しばらくそのまま小椋と抱き合っていた。
そうしていたいと思ったから……


それから二人でシャワーを浴び、裸のまま引っ付きあい、絡まりあって狭い俺のベッドに二人で入った。

まだ少し小椋は酔っている。
その少し高い体温が心地よくて、小椋の胸に顔を埋めた。
ドクドクとなる小椋の鼓動が子守唄のように聞こえた。

行かないで……

もう一度小椋が言ったその言葉を、聞くことなく、俺は眠りに着いていた。






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