うららのお店が忙しいから手伝いに来てと連絡を受けたのは、お風呂に入って寝る準備をしているときだった。
こんなことはしょっちゅうある訳じゃないし、うららから何か頼まれごとをするのは素直に嬉しい。
自分がうららの役に立っていると思うことは、今の私の唯一の生きがいのように思えていた。

「ごめんね、ユキ。何だか、団体さんで来られちゃって…、寝るとこだったでしょ?」

「ううん。いいのよ。それより、このりんごって兎の形に切ればいいんだよね?」

「うん。助かるわ!ありがとう」

小さなうららのお店は開店してもう5年になる。
前のママから受け継いだらしく、前の店より繁盛してるわよと笑いながら言ったのは由美子さんだった。

忙しい時だけじゃなくても、いつでも手伝うと言った私にうららは、

「ダメよ〜。ユキには夜の世界に入って欲しくないの」

そう言われた。
うららのお店には他にバーテンダーのジンさんとキャサリンちゃんとこのはちゃんの3人がいる。
カウンターが10席にテーブル席が2つ。小さなお店はその人数で十分切り盛り出切るらしいけど、
今日は一気にお客さんが来ちゃったから、厨房の手伝いをしてくれると助かるのだとか…

「ユキちゃん、切ったフルーツはこれに入れて、盛り方はそこのメニューの写真を参考にしてくれれば良いから…」

うららと同じくらい背が高いジンさんは一見恐いんだけど、
実は面倒見が良くて、優しい人だ。結婚してて、子供さんもいるらしい。

「ごめん、ユキちゃ〜ん、ダスター取って!」

「だ、ダスター?」

「あ、ごめん。布巾!」

「あ、はい!」

このはちゃんは、和風美人さんで、うららがスカウトしたらしい…
確かに可愛い。

「ごめ〜ん、ユキちゃん、おしぼり取ってぇ〜!」

「何個ですか?」

「5個くらい」

「はい」

「ありがとう〜」

キャサリンちゃんは名前の通り、金髪で、マリリンモンローみたいな格好をしていて、手術も受けてるのだとか…

ここは私のいていい世界じゃないってうららは言うけど、皆普通に優しいんだけどな…と思って、チラッと見えた奥のテーブル席で手を振る女性がいた。

「あ、由美子さん…」

「ああ、お客さん連れてきてくれたんだよ」
ジンさんがトールグラスを混ぜながら教えてくれる。

オーダーの入った食べ物は全部作り終えて、一休み。
ジンさんは黙々とドリンクを作っていくのを、後ろの厨房から見ていた。
出来上がる頃を見計らって、うららやキャサリンちゃん、このはちゃんが取りに来る。
確かに、うまく回ってる。

と思っていたら、由美子さんがカウンターから声を掛けてきた。

「ユキちゃん、さっきうららにも話したんだけど…」

そう言って、白い封筒を渡される。
そこに高木商事と書かれていた。

「10時から15時で時間は短いし、コピーとかお茶汲みとか仕事らしい仕事でもないんだけど」

「え?」

「仕事探してるって言ってたでしょ?バイトになるけど、良かったら面接だけでも受けてみない?」

「あ……ありがとうございます!」

「いいえ、うららは大賛成してたわよ。これなら出て行かれなくて良かったって」

ふわりと笑った由美子さんに、もう一度お礼を言って、うららを見たら、お客さんと楽しそうに笑っていた。



後日受けた面接で、高木商事にアルバイトに行くことになりました。



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