甘い欲望 2




ピンポーン


インターフォンが鳴った。
タイミングが良いのか悪いのか……
俺の発言に動きを止めていた阪口が、縋るようにしてインターフォンに飛びついた。



びっくりしてた……

大概のことを冷静に受けとめる阪口が、どうにもおかしな顔をして動きを止めた。
そう……あれは……鳩が豆鉄砲を食らったような顔って言うんだきっと。

「ああ、用意できてる」

そう言ってインターフォンを置いて、阪口がリビングを出て行く。
こうやって部屋にいて、客が訪ねてくることは多々あることだ。
部下も数人会ったことがある。
だけど、このタイミングで来るのって、いったい……
何となく面白くなくなって、そっとリビングの扉に近づき、細く開けて廊下を見る。
お邪魔虫の顔を見てみたくなったのだ。
どんな奴だ、いったい……


「助かった」

「いや」

「サトルがいるのか?」

「……ああ」

「元気にしてるんだろうな?」

「もちろん」

「大切にしてやってるのか?」

「当たり前だろ!」

誰?

何となく聞いたことのあるような声……

そう思っているところで、阪口がこちらを向いた。目が合った。
阪口の動きが止まる。さっきと同様、鳩が豆鉄砲……

「こっちこい」

一瞬、間が空いて手招きされる。
仕方なく出て行けば、玄関には懐かしい顔。阪口の親父ことホテルのおっさん。

「元気か?」

「うん。おっさんは?」

「元気だ。めっきり見なくなって安心した」

「そう?愛されちゃってるから、俺」

「みたいだな」

阪口を見ながらおっさんが含んだ笑いを浮かべて答える。

「……余計なことは言うな、ほら」

おっさんに突き出すようにして渡したのはさっきの紙袋。

「…それ…」

「ああ、大吾に頼んだんだ。ほら、ホテルのプレゼントに」

「ああ!」

「お前も持って帰ったことがあるだろう?」

過去何度も連れ込まれたホテルのフロントだったおっさんに言われ、何となく思い出して頷く。
そういえばバレンタインのイベントの後、べろんべろんに酔っ払って連れ込まれたときなんかに、
こっそり抜け出して帰るとき、貰ったような記憶がある。

「早く行け!」

乱暴に言い放って阪口がおっさんを玄関のドアの外に追い出そうとする。

「わかった、わかった」

そう言いながらも、おっさんは少し楽しそうだった。

「じゃあな、サトル。またおいで」

「うん、またねぇ」

そう言って手を振る俺を振り返って、阪口がギッと睨んでくる。

「二度と行かすか!」

怒鳴るように言って、玄関のドアを思いきり閉める。
ドアの外からハハハと笑うおっさんの声が聞こえた。

「お前も、またねぇとか言うな、バカ!」

言って、そのまま横をすり抜け、阪口がリビングに向かおうとする。
振り返って見えた背中が怒っている。
どうしてそんなに怒っているのか……
後ろについて歩いていると、急に阪口が向きを変えた。

「ぶっ!」

思いっきり阪口にぶつかり、肩の辺りで鼻を打つ。
痛いと思って鼻に手を持っていこうとすると、その手を取られて、次の瞬間、背中に痛みが走っていた。
更に走った痛みに対し、文句を言おうとした唇がそのまま塞がれ、苦しくなる。
色んなことが一瞬に起きてパニックになり、腕を振り回して抵抗するけど、抑えてくる体はビクリともしなかった。
口の中に甘い味が入り込んできて、やっと状況がつかめた。

キスをされている。
壁に押し付けられ、阪口に。

それはもう濃厚な……


ぴちゃぴちゃと水音が廊下に響く。

「ふっ……んんっ……ふんっ」

気づいた段階で拒む理由なんて一つもないから、応えていた。
鼻から吸う酸素だけでは足りずに、閉じているのに目の淵に涙が浮かび上がる。
さすがに苦しくて、クッと顎を引けば、ゆっくり口の中から舌が抜かれる。
余韻を残すようなキスに翻弄されて、跡を追いかけたくなる。
はぁはぁと肩で息をして、阪口の肩に額を寄せる。
その頭ごと抱きしめられて、耳のすぐ横で低い響きが発せられた。

「お前には、まだ抱かせない」

さっき、おっさんが来る前の俺の発言に対する返事だと理解するまでに少し時間が必要だった。

「まだ、って……いつになったら、抱かせてくれんの……」

「もっと歳がいって、俺の足腰が立たなくなったら」

「それ、すげぇ先のような気がすんだけど…」

「そうだな」

「じゃあ、俺って、それまで童貞じゃん」

「……そうだな」

ふっと鼻で笑った阪口の腕が離れて、顎を掬われる。
見上げた双眸に光る動物的なものが見えて、背筋にズキンと駆け上がるものがあった。

「……続きはベッドで」

言うや否や、そのまま唇を塞がれる。
さっきよりもずっとゆっくりと入り込んできた舌にもうチョコの味はしなかった。



もつれるようにしてベッドになだれ込み、求めるなんて言葉を超えて貪った。
久しぶりにするわけでもない。
多分、水曜日くらいにやった気がする。
それでも、どうしても阪口を感じたくて、俺を感じて欲しくて……

口の中の性感帯すべてを刺激するようなキスを受けながら、手は体を弄っていた。
服の裾から入り込んだ手が一瞬冷たくてビクリと跳ねる。
それすらも快感に変わって、既に持ち上がりかけていた欲望が更に充血する。
徐々に胸の頂きに向かっているのに、そのくせすぐには触ってくれない。
キスで翻弄されているのに、それでももっと快感が欲しくて体をよじる。
頬に風を感じて、うっすらと目を開けると阪口の目と視線があった。

笑ってる……

悔しくて、眉間に皺を寄せたら、それまで胸のあたりを彷徨っていた手が頂きに触れる。

「んっ!」

唇を塞がれたままだから、吐息はすべて鼻から抜ける。
いつも以上に昂ぶっているのは気分なのか、体なのか……

「はぁ…」

やっと離れた唇が、服を捲くられて、今度は存在を主張する頂きに移動する。
舐められ、吸われ、転がされ、下着の中で先走りが溢れていくのが自分でもわかる。
ジーパンが少し苦しくなる。
そうなると、阪口の体に押し付け、状況を知らせる。

「触って欲しいか?」

欲望にまみれた掠れた低音で言われ、コクリと一つ頷いた。
望みどおりにジーパンの前がくつろげられ、下着越しに触れられる。
クチュリと音を立てたのがわかる。

「びしょ濡れ……」

自分でもわかってる状況を言葉で発せられると羞恥になる。
それが快感に変わることを阪口はよく知っている。

下着とジーパンを一気に脱がされる。
一度体を離して、阪口も服の上着を脱ぎ捨てた。
間接照明だけの部屋、潤んだ瞳に鍛え上げられた腹筋が見えた。
大きく足を広げられ、何の前触れもなく奥に触れられる。

「あっ」

自分の先端から流れ出したのもでそこは十分潤っていた。
皺を確かめるように一つ一つに触れられ、そのもどかしい感じが堪らない。
阪口の指が潤ったところで、つぷんと先が入り込む。
広げるように円を描いてゆっくり進む。
快感を感じていると、阪口が上に覆いかぶさるようにしてベッドヘッドの引き出しに手を伸ばす。
ローションの瓶を取り出して、器用に片手で蓋を開け、容赦なく屹立に垂らされる。

「あ……つめた、い…」

「痛いよりはいいだろ?」

「そう、だ、け、ど…ああっ」

ローションの力を借りて、指がすんなり奥に入り込む。
掠めるように前立腺を刺激されて、更に先端から先走りがあふれ出し、自分の腹に雫をたらす。
ぐちゅぐちゅと音を立て、一本だった指が二本に増やされ、さらに入り口を広げるように動かされる。
もう限界……

「だ、いご……も、もうっ……」

「まだだろ?」

「いい。痛くてもいいから」

掠れた声で言うと目が合った。
痛くなんてしたくない。と言う目で見つめられ、痛いくらいに感じたい。と目で訴え、きゅっと指を締め付けた。
負けた……とばかりに指が抜かれて、勝ったと思って頬が緩む。
息をするごとに上下する腹の向こうで、阪口が下着と一緒にズボンを脱いだ。
先ほど同様、ベッドヘッドに手を伸ばしてゴムを取り出し、阪口がそれを着けるのをぼんやりと眺めた。
そして、次の瞬間、ゴム越しなのに当てられた熱の高さにめまいがする。
いつもいつもこの瞬間はドキドキと心臓が高鳴る。
迎え入れる痛みに対する体の反応は、注射をする前に似ているから……

ゆっくり入ってきたものは、やはり少しきつかった。
広げるように、無理やりこじ開けるようにして入ってくる質量に、視界がぐっと潤んでくる。
それでも受け入れたくて手を伸ばす。
その手を取られて阪口の首に回され、より一層深くに進む。
ゆっくりゆっくり埋められ、最奥とばかりに肌が密着する。
頭ごとぎゅっと抱きしめられて、息を止めていたことに気づき、ゆっくりゆっくりと吐き出した。

「はっ…はぁっ……」

「きっ…ついな……」

馴染むまで待って、ゆっくり肌が離れていく。

内臓ごと引きずられるような動きの間、ずっと前立腺を刺激される。

「くっ……んんっ……」

ギリギリまで引き抜かれ、次の瞬間強く打ち付ける。

「ああっ……あっ……」

「くっ……」

阪口が打ち付ける度に、ローションがぐちゅっと音を立て、その度に自分の高い嬌声が部屋に響いた。
徐々にインターバルが狭められ、直線的な動きになり、阪口の腹と自分の腹の間の屹立も追い立てられる。
そうじゃなくても昂ぶっていたものが、開放を求めてギリギリの状態。
揺れの激しさにベッドがギシギシと音を立て、阪口の首から腕が落ちる。
その手のひらに重なるようにして阪口の手が重ねられ、ベッドの上に縫いつけられる。

「もっ……い、きそっ…」

「もう、ちょっと」

言うと更に腰の動きが早くなった。
阪口も限界なのかもしれない。

「ああっ……くっ……そ、こ、やだ」

「ここか?」

「あっ……あっ……ああ……だ、いごぉっ……」

「く―――っ」

一際奥に打ち込まれ、ぴちゃり…と腹の上にしぶきが飛んだ。
触れることなく達したときの快感に、阪口をぎゅっと締め付け、その反動で阪口も達する。
ドサリと落ちてきた体を受け止めて、はあはあと互いの息遣いだけが部屋に響いていた。

「……よく、わかった」

酸素を貪る間に言葉を紡ぐ。

「何が?」

「俺は、まだまだ、修行が足りない……」

「何の話だ?」

「あんたを抱くって…話だよ」

「ははは…そうだろ?」

何とも言えない幸福感に、イった後独特の倦怠感が混ざってそのまま瞼を閉じる。
体の上からどけた阪口が、甲斐甲斐しく体を拭いてくれているのがわかった。
それでも瞼が上がらない。
シーツを掛けられ、横に阪口の体温が滑り込んでくる。
その体に腕を回してしがみついた。




いつになったら阪口を抱けるのだろう……
それが、ずっと先……ずーーっと先なら良いのに、な……








- 10 -




[*前] | [次#]

≪戻る≫


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -