天使か悪魔か…3 気持ちが通じたとして、お互いが大人なら… ハンドルを握る掌にじわりと汗が滲む。 焦るな…焦るな…ゆっくりと時間を掛けて… そう思うのに、一つの事しか考えられなくなってくる。 夢にまで見た瞬間が今日訪れるかもしれない… それもほんの数十分後に。 どこか緊張の糸が張り詰めたような空気が漂い始め、 折角打ち解けていた雰囲気がぎくしゃくとしたぎこちないものになっていく。 行きの車の中とは違い、お互い映画の話をしながらも、 上の空のような会話が続く中、指示された交差点を左に曲がり、 見えた公園のすぐ横にあるコインパーキングに車を止めるように言われた。 シートベルトを外しながらチラリと助手席を見れば、その視線に気づいたのか、 にっこりと笑う。 犯しがたい天使のような微笑だった… 「はい、どうぞ」 「ありがとございます」 コトンと目の前に置かれた香りの良いコーヒーに手をつける。 店で淹れ慣れている佐々木さんのコーヒーは美味しくて香りが豊かだった。 時刻は既に日付が変わろうとしていた。 10畳ほどのフローリングの上に黒と白のシックなラグマットが置かれ、その上にガラステーブル。 その前に置かれているソファではなく、ラグの上に直に座っていた。 コーヒーを淹れた佐々木さんは当然、向かいか、斜め前に座るだろうと思っていたのに、隣に座ってきた。 緊張する… 「あのシーンはどう思いました?」 「ど、どのシーン、ですか?」 近すぎる距離に心拍数が上がるような気がした。 「ほら、あの…主人公が、書類を見つけたときの…」 コーヒーカップを持つ手に力が篭る。 映画のシーンの話よりも佐々木さんの動きのほうが断然気になる。 「ああ、あのシーンですか…」 それまで良き同僚だと思っていた犯人に対して疑いを持ち始めるきっかけとなったシーン。 主人公は犯人に対して疑いを抱きつつ、 そんなことはある訳がないとその疑いを払拭するために色々と調べ始める… 「私は…主人公のあの心理が理解できませんでした」 「え?」 「だって、そうでしょう?あれだけの証拠があって、彼が犯人だといっているようなものなのに…」 「いや、でも…信じたくないって思う気持ちはわかるような気がしますが…」 「そうですか?目の前にあるものを信じたほうが現実的でしょう?」 池田さんと言われ、持っていたコーヒーカップが佐々木さんの手によって取り上げられ、 ガラステーブルの上に置かれる。 どうして?そう思っている間に、更に近づいてきた佐々木さんの声が直接右の耳から注ぎ込まれた。 「例えば…今の状況。あなたは私の事が好きでしょう?」 「え?」 「私を見る目だとか、私の言葉一つにあなたは喜んだり、落ち込んだり… そういったものを素直に受け入れたほうが良いと思いませんか? ……受け入れて、もらいたいでしょう?」 言われた言葉にカーっと一気に顔に血液が集中する。 赤くなり熱を帯び始めた耳をぺろりと舐められる。 「ひゃ!」 突然の行動に声を上げれば、 「かわいい」 そういって頭ごと引き寄せられ、更に舌で耳を弄られる。 駐車場で佐々木さんも俺と同じ気持ちだと思った。 だけど、気持ちは同じだったとしても… 経験が違いすぎるような気がした。 「あ…あ、まっ、待って、佐々木さん!」 「かわいい。恥ずかしがらないで」 頬を両手で挟まれ、ちゅっと軽く唇に佐々木さんの唇が落ちる。 そのまま、しばし見つめ合う。 羞恥で目に涙が浮かんで、視界がぼやけてきた。 「受け入れてもらいたいでしょう?」 潤んだ瞳で見えるにっこりと笑う佐々木さんの笑顔が、 甘い果実を差し出し、人の欲望を持って堕落させる悪魔の囁きに聞こえた。 促されるようにコクンと頷けば、噛み付くようにして唇を塞がれる。 上唇と下唇を交互に食まれながら、最後にぺろりと舐められる。 口を開けろといわれているような舌の動きに少し開けば、熱い舌が入り込んできた。 そのまま深いキスが続いて、ゆっくりと後ろに押し倒される。 眼鏡を外し、ガラステーブルに置かれる。 手の動き1つ1つに緊張して、体が敏感になる。 シャツの裾から入って来た手が冷たくて、びくりと体を跳ね上げたところで、唇が離された。 「私に預けてください。池田さんは何もしなくて良いですから…男は初めてでしょう?」 言われた通りに体を預ける。 こんなこと… こんなことってあっても良いのだろうか? 望んだものを与えられる喜びが、ふつふつと湧き上がる。 ボタンを外し終えた佐々木さんが、そーっと掌で体を撫でる。 覆いかぶさるような格好になり、鎖骨の辺りにキスを落とされる。 体を撫でていた手が、胸の辺りに移動し、そっと頂きに触れる。 びりびりと快感が駆け上がる。 赤い舌が鎖骨から胸に掛けて動くのが見えた。 扇情的なその動きに、下半身に血液が集中する。 自分の出す快感に震える吐息だけが聞こえていた部屋の中にガチャリとベルトが外される感覚がある。 そのまま前を寛げられ、引きずり出されたものが高度も持っていたことに羞恥を覚える。 優しく包み込むような動きをされ、胸から徐々に下りていく唇に包まれた。 「ふ、うっ、ふわっ」 快感を示す声だけが出てくる。 初めてではないその行為も、佐々木さんにされていると思うだけで、達してしまいそうになる。 「良いですよ…。一度出して」 催眠術にかかってしまったように佐々木さんに言われるがまま、佐々木さんの口の中に解き放った。 申し訳なくて、ティッシュを探すも、サイドボードの上にあって、取りに行けない。 その時、ゴクリと言う音が聞こえた。 信じられなくて、目を開いて佐々木さんを見れば、 「美味しかったです」 と言い、服を脱ぎ始める… 飲んだ?男の精液を…? 信じられないことばかりが続いて、佐々木さんがさっき言ったことを思い出した。 色々と詮索するよりも、目の前の状況を受け入れたほうがよっぽど現実的だった。 そう思うと、受け入れた現実を楽しんだほうが良い気がした。 すべてを脱ぎ去り、同じものが股間についていることさえも気にならない。 寧ろ、角度を付いているそこを嬉しいとさえ思えてくる。 手を伸ばして触ろうとすると、その手を取られ、さっき自分を翻弄した舌が指に絡みついた。 「こっちに…」 促された先は、更に奥まったところで、初めて触れるそこは、何となく熱を帯びている。 「ここに…」 言われた言葉通りに窄まったそこに指を押し付ける。 つぷりと入れた未知の世界は暖かかった。 「あっ!」 自分の上で、仰け反った格好の佐々木さんを慌てて体を起こし、反対の手で支える。 近くなった距離。目の前には佐々木さんのピンク色の乳首。 おいしそうに震える小さなものを唇に含むと、ううんと色気を含んだ声が漏れた。 感じてくれているんだと思うと夢中になって、入れた指と一緒に唇で同時に快感を与える。 一点に指が触れたとき、ああんと一際大きな声が聞こえた。 前立腺を掠めたのだろう。 その様に、さっき達したばかりの自身が力を蘇らせる。 「…も、もう…」 言われた言葉と自分の気持ちは一緒だった。 もう、限界。 少し体をずらし、佐々木さんが自ら腰を落としてくる。 掴まれた肩の指に力が入り、痛いほどだった。 そこからはとにかく夢中で腰を振った。 何度もキスをして、上になったり下になったり触れ合い、抱き合った。 途中で場所をベッドに移した。 疲弊し、だるいと思ったけれど、何度も求めてくる佐々木さんから解放されることはなかった。 やっと解放されたとき、見えた時計は午前3時になろうとしていた。 だるさから、明日が仕事だという事を思い出した。 帰ることが億劫になってくる。 「泊って行きますか?」 隣で横たわる佐々木さんの言葉に、甘えさせてもらい、うんと言ってぎゅっと引き寄せる。 疲労感と満足感で徐々に瞼が落ちてくる。 幸せだ…そう感じて眠りの世界へと旅立つ俺の胸の中で、 佐々木さんが 「次は私に抱かせてくださいね」 と言った言葉は聞こえなかった。 [*前] | [次#] ≪戻る≫ |