大切なこと





晩御飯のリクエストを高元に聞いたら、カレーが食べたいと言われた。
足りない食材を買いに行くと言うと、高元も来ると言う。
休みの日のスーパーは家族連れが多く、その中で男二人というのは浮いていたかもしれなかった。
それでも一人で行くよりも二人の方がずっと楽しい。
一つ一つを手に取りながら、ユキちゃんに教えてもらった知識を披露する。
へぇとかうんうんと隣で返事をする高元ですら知らないことを知っていることが嬉しくてついついはしゃいだようになってしまった。
新たまねぎと新じゃがを買って、カレーの食材を買い終え、店を出たとき。
この材料ならポテトサラダも作れると思ったから、高元に袋を託し、急いでスーパーに引き返した。
目的のものだけを持ってレジに並ぶ。
ポテトサラダにチーズを入れると美味しいと教えてくれたのはやっぱりユキちゃんだった。
前に並ぶお母さんの肩越しに1歳くらいの女の子がきょとんとした顔で自分を見る。
目が合った瞬間。にこっと笑われたから、笑い返す。
ちょうど一年前だった。
黄色いカゴを持って、同じようにカレーの食材を買いに来た。
たった一人で。
実家に車を取りに行った高元と一緒に食事をしたいと思って。

そのとき自分は、幸せそうな家族ばかりのスーパーから逃げるようにして帰ったことを思い出す。

自信がなかったのだ。
世間で認めて貰えなければ、自分たちは存在すらしてはいけないような気がした。
男女で付き合い結婚する。子供を育てて老いて死ぬ。
それが当たり前で、そうしなければいけないとどこかで自分で思いこんでいた。
大きな声で言えない関係が後ろめたかったのだ。

レジの列が前に進む。
お母さんに抱えられた女の子に百面相をして楽しませると、恥ずかしくなったのか母親の肩に顔を隠してしまった。
それでも気になるのかチラチラとこちらに視線を寄越しては首をすくめる。
会計が終わって遠のく彼女が手を伸ばしてグーパーを作る。
バイバイの意味だと理解して手をヒラヒラと振って答えると、やはり恥ずかしくなったのか母親の肩に顔を埋めてしまった。

会計を済ませて、小さな袋に入れてもらったチーズを振りながら高元の背中を追った。
ここのスーパーからマンションまでの道のりは大きく分けて二通りある。
どちらだろう?と思いながらもこっちだなと決めて路地を曲がる。
案の定、少し遠めに長身の男が立ち止まっている。
マンションまでの間にある小さな公園。
その公園から突き出すようにして存在を主張する一本の桜の木。
その桜の木を見上げる長身の男。

高元は断然スーツが似合う。
肩幅が広く、背が高い。頭が小さくて、こざっぱりとした印象がある。
鍛え上げた筋肉はないけれど、引き締まって無駄な脂肪がついていない。
そして、胸板が厚い。
スーツ越しに抱かれたときはちょっとした安心感さえある。
だからと言って、私服がかっこ悪いわけじゃない。
休みの日の今日は、黒のニットに履き古されたジーパンだけど、足が長いから立ってるだけで様になる。
基本的にシンプルな装いをする。
それが反って高元の男としての色気を引き立たせる。
隣に立つと、それに嫉妬すら覚える。身長はそんなに変わらないのに……
近づくにつれその姿がはっきりと見えるようになる。

かっこいいじゃねぇか、ちくしょう

心の中に出来た余裕が、こんな風にして現れる。
それがどこか誇らしくもあり、恥ずかしくもあった。
近づく足音に気づいて高元がこちらを見る。

「綺麗だな」

「ああ」

少しだけ距離を開けて隣に佇み、桜を見上げる。
たったそれだけの会話に幸せだなと思う。
誰かに認めてもらえるのは……それは嬉しいことで、それに越したことはない。
でも、それ以上に自分たちが一緒に歩んでいくんだと思い合えることの方が、ずっとずっと大切だ。


雨上がりの日曜日。
光を反射してキラキラと光る雫。
ふと下を見ると、排水溝の中を花びらがひらひらと流れている。
これはこれで風流なのかもしれない。

「もうないよな?買い忘れたもの」

「うん」

頷くと同時に風が吹く。煽られて花びらがチラチラと舞う。
スーパーの袋を持って二人で歩く。
一年前、この道を歩きながらした決意。
それは今でも変わっていない。
時折見失って落ち込むこともあるけれど。
それでもずっと一緒にいたい……その積み重ねに未来があるから。








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