勝利の笑み 3





さすがにここではまずい…

思ったところで、ぐずぐずと子供のようにぐずる英太は、既に理性よりも本能の方が勝っていた。
俺のネクタイを外し、フルフルと震える指で、ワイシャツのボタンを外そうとする。
うまく行かない事にじれったい思いをしたのか、ズボンから無理矢理引き出そうとしたところで、
担ぎ上げて、寝室に向かう。
酔いはとうに飛んでしまった。
状況は変わらないのだったら、楽しんでしまえば良い。
発想を変えると気持ちが楽になった。

空けた寝室を見てぎょっとする。
床に散らばっているそれらは、確かに袋に入っていたもので、その袋も脇に転がっている。
避けながら近づいたベッドの上に乱暴に置くと、痛いと英太が泣くように呟く。

「大丈夫か?」

確かに丁寧ではなかったけれど、痛いといわれるほどでもなかったはず。

「大丈夫じゃない…」

背後から聞こえた声に、緩められたネクタイと、スーツの上着をクローゼットに仕舞い、中途半端にされたワイシャツのボタンを外しながら問いかける。

「どこが痛い?」

振り向き様にうつ伏せになっていた英太が起き上がるのがわかった。

「ここ」

差されたところは股間で、パジャマのズボンの上からでも張り詰めているのがわかる。
同じ男としてその辛さがわかるだけに、早くどうにかしてやろうと思う。
だけど…

「そんなに痛いんなら、自分ですれば良いじゃないか?」

「した」

「じゃあ、もう一回してみろよ?見ててやるから」

「え?」

「見ててやるから、自分でしてみろよ」

一瞬、理性が戻ってきたのか、眉間に皺がよった。
下を向き、自身のそれを見つめること数秒。

「うん」

大きく頷きそう言うと、普段でもそれなりに従順な英太が、まるで催眠術に掛かったように、
ベッドの上に膝立ちになりズボンと下着を一緒に膝までずり下ろした。
ぷるんと音がしそうなほどの勢いで出てきたそれを見て、ゴクリとツバを飲み込む。
以前は女性にしか興味がなかった自分が、それを見て心臓をドキドキとさせていることに驚く。
いや、正確には英太だからだ。そこらの男は勘弁して欲しい…
たった半年なのに、すっかり骨の髄まで侵食されていることに、呆れるのが半分、当然だと思うことが半分の複雑な思いが胸に広がる。

勃ち上がるそれを英太がゆっくりと握りこむ。
あれだけ張り詰めていたのだからすぐに果てるだろうと思っていたのに、決定的な何かが足りないようだった。

「ダメ…イけない…高元ぉ…」

甘えるような声を出されて、苦笑する。

「違う。お前の良いところは、そこじゃない」

「ど…どこ?」

自分の体なのにわからないのだろうか?
冷静に考えることが出来ないから仕方がないけれど…

近寄り、手を伸ばすと、英太が手を引っ込める。

「ここだ」

握りこんだ途端、掌に伝わる血液の流れの速さに戸惑う。

「あっ…あっ…ああ…」

上下に動かすと掠れた喘ぎ声が漏れ出し、それと同時に、質量を増すのがわかる。
英太の手が両肩に乗り、ぎゅっと掴む。
その強さに快感が強いことを知る。
手の動きに合わせて、英太の腰もフルフルと揺れる。同時に肩に置いた手も強く掴んでくる。
先端をぐりっと親指の腹で刺激すると、ああ!と一際声を上げて一気に果てた。
手の中に吐き出されたものがこぼれ落ち、シーツを汚した。

肩に掛かるだけのシャツが鬱陶しくて、汚れたままでは脱げないから、
ティッシュで手を拭いていると視界に入ったものがあった。
脱ぎ捨てたシャツとズボンを放り出し、代わりに床の上に散らばるそれらの中から、
ロリポップキャンディーのような細長いそれと、ローションを取る。
あのオカマがどこでこんなものを手に入れたのかは知らない。
良く読まずに開けたローションは、掌に垂らした瞬間、冷たいと感じるものだった。
それを細いそれに塗りつける。

既に息が上がり、苦しそうにしてベッドに仰向けになっている英太の足を抱え、奥の窄まりにあてがう。

「ひやっ!」

冷たいと感じたのだろうか、声を上げる。

「な、なに?」

「なんだろうな」

とぼけていると、

「な、んだ、よ…冷たっ!高元?」

上半身だけ起き上がった英太があてがわれているものを見て、

「い、いやだ!」

抗議の声を上げる。

「興味があるんじゃないのか?」

「そっちはない。嫌だ。それは入れないで…」

懇願にも似た声を上げる。

「どうして?」

「高元のが良い。それは嫌だ…お願い…」

薬のせいだとしても、この言葉は正直腰に来た。

「俺のが良いのか?」

「高元のが良い…」

念を押すようにして聞いた言葉と同時に、噛み付くようにキスをする。
それに必死に応えるように舌を絡ませてくる英太の鼻から、甘い吐息が漏れる。

唇を離し、首筋に口づけ、跡を残す。
いつもは白い肌がピンクがかったそこに赤い跡をちりばめると、花が散ったように見える。
触れてもいない胸の突起も、濃い朱を帯び、おいしそうに熟れていた。
口の中に入れると、味なんてしないはずなのに甘く感じる。

「ふぁ…、……あ、……うぁ」

引っ切り無しに漏れる吐息は掠れて、途切れ途切れに聞こえる。
首から下へと向かって唇を落とし、体のラインに沿うようになで上げ、一度体を離す。
横を向いて、シーツをきつく握り締め、呼吸をするたびに腹が大きく波打つ。

下着を脱ぎ、さっき開けたばかりのローションを自身に塗りつける。
自分で塗っておきながら、冷たく感じることにびっくりした。

英太の膝を抱え上げ、奥の窄まりに指を当てる。

「んっ」

と小さく身もだえたのは、冷たかったからだろう。
解すように動かすと、誘うようにヒクヒクと動く。
ゆっくり差し込んだそこは、想像以上に熱かった。
いつもよりも狭いと感じるのに、いつもよりも誘うようにすんなりと招きいれる。
出し入れを繰り返すと、

「は、はやく」

と強請られる。
苦笑しながらも、指を抜き、そっと自身の先端をあてがった。

「入れるぞ」

と囁くと、コクンを頷くのが見えた。

「きついっ」

いつもよりスムーズに入るようでいて、押し返すような扇動をする内部に、勝手に腰が揺れる。
揺らすたびに、英太が声をあげ、断続的に部屋の中に掠れた喘ぎが充満する。

「ん……あっ……あっ……、んっ……」

中は燃えるように熱いのに、塗ったローションが冷たい。
相反する状況に、色んなものが持っていかれる。
理性、思考、そういった人間らしい部分がこそぎとられ、
動物としての本能だけが剥き出しになるような感覚。
英太を抱くことだけに夢中になる。
そんなこと、いつものことだろ?そう問いかける自分がいる。
いやそれ以上だと反論する自分もいる。
渦の中に飲まれるように、体を動かし、英太の良いところだけを集中的に突いた。

断続的だった掠れた喘ぎ声が、徐々に持続的になり、そのうち声が出なくなるほど、激しく揺さぶる。
血液が背筋を駆け下り、一点に集中しだす。
高みに上る感覚が駆け抜け、最奥を突いたところで、触れることなく英太から白濁が解き放たれ、
それによる強烈な締め付けが自身を襲い、耐えられることなく、英太の奥深くに刻みこむように放った。

崩れ落ちるように英太の上に倒れこむと、ハアハアという息遣いと、ドクドクとい互いの心臓の音が共鳴する。

「英太」

呼んで、顔を覗き込むと、意識がないのか返事をしない。
息をしているから、大丈夫だとは思うけれど、薬を飲んでからずっと心臓の動きが早かったに違いない。
体にかかる負担を思うと、急に不安になった。
ペチペチと音を立てて、名前を呼びながら頬を叩くと、うっすらと目を開けた。

「……飛んでた?」

「ああ、ほんの数秒だけど…」

聞こえた声がひどく掠れているけれど、それでも意識が戻ったことに安堵した。

「大丈夫か?」

問うと、コクンと頷いた。

「体は?」

「多分、もう大丈夫…」

「そうか」

英太の上に乗っかったまま、頭をゆるく撫でる。
思った通りの柔らかい髪が、汗ばみ、指が通るのを拒む。
数秒見つめ合った後、チュっと一つキスを落とし、体を離す。

「シャワー、行けそうか?」

「う〜ん…どうだろう」

ベッドから下りて、立ち上がり、手を差し出すと握り締めてくる。
熱い掌を握り、力を込めて起き上がらせると、案の定足に力が入らないようで、グラグラと揺れる。
英太の腕を俺の肩に回し、膝の裏に腕を入れる。

「あ、待って、ちょっ!待って!」

お姫様抱っこをすると、焦ったようで酷く暴れる。

「重いんだから、大人しくしろ」

言うとすんなり大人しくなった。

もう大丈夫…そう言ったのに、結局、中を掻きだしているときに、酷く感じた英太によって、
浴室でももう一度するハメになり、出たときには互いにクタクタになっていた。
シーツが汚れていたけれど、替えることも面倒で、そのまま二人して、雪崩れ込むようにベッドに潜り込み、
抱き合ったままで眠りについた。

「楽しかったけど…もう、こりごりだ…」

眠りつく前に英太が小さく言うのが聞こえた。

「俺も…」

応えた声は聞こえていないかもしれない。
それでも良い。
英太もそう思ってくれたなら、それで良い。
俺たちには俺たちのペースがある。
楽しかったけれど、それでも、自分たちのペースで、ゆっくり進んで行きたい。





――数日後

先日、トラブルで早急に帰った取引先から、先日のお詫びにとまたしても接待の誘いがあった。
どうやら新しい担当は、相当の女好きのようだ。
「高元さんがいると、女の子の反応が良いんですよ〜」
電話を切る前にそんなことを言われ、俺は客寄せパンダなのか?と思いながらも、
無碍に断ることも出来ない相手だけに、先を思うとげんなりとした。

いつもの店に着いて1時間ほどしたところで、デジャヴのように取引先の携帯が鳴る。

「また!?」

上げた声に、嬉々とする自分がいる。

「すみません、高元さん。また、トラブルで…」

がっくりと肩を落とす担当には悪いけれど、やはり助かったと思う。
先日と同じように、気にしないで下さいと早々に店を出て、タクシーが角を曲がるまで見送った。

と、そこにまたしても今日は真っ赤なスーツに身を包んだでかいオカマが店から出てくる。
「またね〜ありがとう〜」
酒に焼けた独特の掠れた声が辺りに木霊する。
店に戻ろうとして通りのこちらに俺がいることを認めると、動きを止めた。

「あ!高元!ちょっと待ちなさいよ!」

指を差しながら言われ、左右を見て、車が来ていないことを確認するや否や、凄い勢いで近寄ってくる。
急いでタクシーを見つけようと通りを見たけれど、こんな時に限って一台もいない。

カツンカツンと鳴るヒールの音が、ジョーズの音楽に聞こえるのは俺だけだろうか?

「この間はどうも!」

嫌味をたっぷりと込めた笑顔で言われ、

「どうも」

と負けずに笑顔で返す。

「ねぇ、使ったの?」

「……ああ」

「で、どうだった?良かった?」

目をキラキラとさせているけれど、目線は若干上だ。
見下ろされるようにして言われると、ちょっとしたホラー映画級に恐ろしいものがある。

「全然。寧ろ、英太は嫌がってたぞ」

「はあ?何で?」

丁度その時、空車の赤いランプが目に入る。
手を上げると目の前で止まった。

「俺の方が良いんだってさ」

捨て台詞のように言ってタクシーに乗り込む。

「どちらまで?」

問いかける運転手に住所を告げる。

窓の外を見ると、呆然としていたうららが、にっこり笑う。
窓を開けると、

「そうね…英太ってそういうタイプよね」

笑いながら言われ、

「ああ。でも、それに気づけた。ありがとう」

そう言うと、一瞬きょとんとした顔をしたけれど、

「やっぱり、高元も良い男ねぇ〜、だから」

続く言葉を聞いてはいけないような気がして、窓を閉めながら、運転手に車を出すように促す。
ゆっくりと走り出す車をうららが一瞬追おうとして諦めたようだった。
それでも、遠くなる真っ赤なオカマが発する怒声が小さいなりにも聞こえてきた。

「男前は大変ですね…」

と言う運転手に、

「そんなんじゃないですよ…」

と答えた。
その顔は、苦笑ではなく、心の奥から、勝ったと思う、勝利の笑みだった。







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