Un présent de Père Noël 〜 サンタからの贈り物〜



キラキラと見えるのは、
単に昼間は枝だけの木が、夜に金色の花を咲かせているだけじゃないことくらい俺にだってわかってる。

情けないことに目のふちに溜まったものが「涙」なんて名のものだってことも。

駅前の通りは、どこかしこで手を繋ぎ合い、腕を組み合う男女で溢れていて、
通り過ぎた薬局の中から、赤い鼻をしたトナカイの音楽が聞こえ、
トナカイ以上に今の俺の方がかわいそうだと真剣に思った。
マフラーをほどき、コートのボタンまではずしていた自分に情けなくもなる。
襟と襟の隙間を駆け抜けていく風が、より一層身にしみたが、
今の俺にはそのくらいがちょうどいい。
風邪をひいたってかまわない。
世界中の不幸を引きずって歩く俺の足は、亀よりのろいことが自慢にさえ思う。


まさか、イブ前日に振られるなんて思いもしなかった。
付き合って2年。そろそろ結婚…なんて思っていた俺からすれば、
今年のクリスマスがどんな意味を持っているものか、真由子にはわからなかったようだ。

確かに、夏から秋にかけて仕事が立て込み、忙しかったのも、また事実。
でも、その忙しいのがあったからこそ、俺は真由子と結婚しようと思っていたのだ…
休日を返上し、何とか仕事を片付け、約束も取り付けていない真由子の部屋に入った俺の目に映ったものは、
この世で一番見てはいけない衝撃的なものだった。

握り閉めていた合鍵と、ついでにかばんの中に手を入れ、
仕事の外回りの合間に選んだ給料の3か月分の代物を次々とベットのふくらみに向かって投げつけ、
転びそうになりながら飛び出してくることしか出来なかった…
そう思うと、また目のふちに溜まってあふれ出そうとする涙。

泣いてたまるか!と歯を食いしばり、思いっきり見上げたビルとビルの間の暗い空から、
不意に白いものがちらついた。

「初雪か…」

ふと右隣から聞こえた響きの良い低い声に、びっくりして、涙が飛び散った。
我慢したせいか鼻水が垂れてきそうになる間抜けな顔のまま、右側を見た俺に、
クスっと笑って、

「初雪を一緒に見たら、結ばれる…って言っても男同士じゃあり得ないか」

と言い、男はきれいにアイロンのかかったハンカチをコートのポケットから差し出した。
うまく状況も飲み込めないまま突っ立ている俺の空いている右手をとり、その掌にハンカチをおいて、

「何があったか知らないけど……風邪引くなよ。Merry X'mas」

そう言って男は立ち去った。

残された俺は、掌のブランド物のグレーのハンカチを見つめ、

サンタさん、今年の俺へのプレゼントは、まさか、このハンカチとか言わないよな?

遠慮なく受け取ったハンカチで顔を拭き、鼻も噛んでやろうか?そう思ったが、
クリアになった視界で見た道の先に、男の姿が小さく見える。
その先に、サンタの格好をした女の子がティッシュを配っているのが見え、
あれを貰おう。鼻をズズっと吸い上げ、ハンカチをコートのポケットにしまいこんだ。

亀よりのろかった足が、うさぎくらいになっていたのは一時期のものだろう。
耳に聞こえるのはトナカイではなく、定番の「ラストクリスマス」。
確か、失恋した曲だよな…と思うと、腹の中に黒いものが広がり、脳裏に真由子の部屋での光景が浮かんだ。
コートのボタンを閉め、マフラーを巻きなおして、それでも、さっきよりは格段に軽くなった足取りで、俺は駅に向かって歩き出した。




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