初めての… 3 その後、痛がる英太を風呂につれて行き、中を掻きだそうとしたそこは、ひどく傷がつき、悲惨な事になっていた。 それでも何とか処理を済ませ、リビングのソファに横たわらせて、病院へ行こうと言う俺の提案を絶対に嫌だ!と頑固なまでに断られたそのとき、 「あ!高元、俺の上着持って来て」 と言われた。 言葉のままに行動すれば、ポケットの中をまさぐる。 くちゃっとした紙が出てきたと思ったら、そこには携帯の番号が… 二枚もあるのか…?ってことは……2人いるってことか…? 「これはユキちゃんのだ。あれ?もう一枚入ってるはずなのに…」 「ユキちゃん…?」 「あぁ、ほら、この間俺が…その…女っぽくなってないか?って聞いただろ?」 「ああ」 「その子だよ。その子が同居してる人と俺が同じ匂いがするって言った子だよ」 「ああ、じゃあ新しくバイトに入って来たって言ってた子か?」 「そうそう」 軽く流して軽く答えているつもりではあるが…まだ事の真相は何一つ聞けてはいないことに、今更ながらに気がついた。 またしても渦巻く感情が持ち上がってきそうになる。 「で?何でその子の携帯番号のメモが?」 「まぁ待てって。今、説明するから…ってやっぱりない。高元ベッドに落ちてないか見てきてよ」 普段ならこういう物言いをされるとカチンと来る。 だが今日はひどく負い目があるから従うしかない。 さっきの現状そのままに乱れたベッドのシーツとシーツの間に紙切れが挟まっている。 明るい廊下の元で見たそのメモには、 「うらら」 と名前が書いてあった。 うらら? 「これか?」 「あ!そうそう、それ。ついでに携帯!」 言われるがままに動き、英太の手に携帯を握らせる。 「こんな時間にかけるのか?」 「うん。店やってるから…出るかどうかわかんないけど……」 「ちょっと待て!きちんと説明してくれるんじゃなかったのか?」 「ああ、そうだったな。この番号の人」 「ああ」 「オカマだったんだよ」 「…は?」 「だから…オカマで…その、…その人も…男に抱かれる…人だったんだよ」 「それで…」 「そう、それで同じ匂いがするって言われたと思うんだ…」 「そうか…。で?何でそれがその番号と関係があるんだ?」 そのユキちゃんという子が百聞は一見に如かずだと言い、うららと呼ばれるその人のする店に行ったのだと。 そしてその帰りを俺が目撃してしまった―― と英太は言った。安心して良いものかどうかはまだ判断できないが、 「で?何でその番号に電話をするんだ?」 「……恥ずかしいけど…うららさんが何かあったら連絡しろって。その…体のこととか…」 真っ赤になって俯いた英太がしようとしていることは大手を振って賛成こそ出来はしない。 だが、病院に行くことをあれだけ嫌がっていたのに、 そのうららというオカマになら相談できると言う。 会った本人がそれを望むのなら、それだけ信頼がおける人物なのだろう…と思うしかなかった。 「良い?」 「……ああ」 紙を見ながら携帯を打つ英太を横目にして、キッチンへ向かいコーヒーを淹れる。 アルコールでない何かを口にしたかったから。 しどろもどろになりながら説明する英太にひどい罪悪感が沸いてくる。 すまなかった…と心から思うが、どうしてもやれない自分がひどく情けなかった。 入ったコーヒーを手にソファまで行けば、丁度説明が終わったところのようだった。 英太に…と持って来た水をテーブルにコトンと置いたとき、 『何よそんな男!別れちゃいなさいよ!』 という声が携帯から漏れてきたのが聞こえた…。やっぱりそうだよな… 「絶対に別れないよ!だから、どう処置をすればいいか教えてって言ってんだろ!」 いつになく声を荒げて怒る英太が、俺にとって嬉しくて仕方のないことを言ってる自覚はまったくないらしい。 「わかった。ありがと…え?何?…うん、うん、はは!わかったそうする!じゃ、また店に行くよ。ありがとう!」 パタンと携帯を閉じた英太に、 「何?どうすれば良いって?」 と心配気に聞けば、 「薬塗って、明日は仕事休んで安静にしとけば治るって。それと…」 「それと?」 「お詫びにホワイトデーに何か欲しかったものを買って貰えって!」 そんなことで良ければと思った俺の耳に、 「俺、ずーっと車欲しいって思ってたんだよなぁ」 と言う声が聞こえた。 [*前] | [次#] ≪戻る≫ |