初めての… 2





「あっ…あっ…あっあああぁぁ…」

入り込む度に上がる声が揺れる。受け入れる準備をしていないそこはひどく行く手を阻んでいた。
それでも、お前は俺のものだ。良く覚えておけといわんばかりに進めていけば、
大きく喉元を見せた英太の体に散る所有の証がひどく扇情的だった。

痛い、やめてくれと懇願する英太の声を無視して、時間をかけてすべてを埋め込み、
馴染むまで一時は置いたものの、何度も何度も刻みつけるように律動を繰り返した。

高みに上り、最奥に強く突いて、注ぎ込んだと同時に、思いっきり英太を抱きしめた。

だけど、渦巻く欲望も自分のものであるという満足感も何一つして得られることはなかった。
それは、英太のものが最初から最後まで、ピクリとも反応を示さなかったから…。
それでも止めることの出来なかった衝動は、生まれて初めて感じるものだった。

はぁはぁと肩で息をしながら、ゆっくりと力を緩めたと同時に、すごい勢いで腹を蹴られた。

「っく!」

後ろに倒れ、ドタン!とそのままベッドから落ちた俺に、

「何でこんなことすんだよ!!!ひっ……ひどいよ!!!」

そこで初めて英太が泣いていることに気がついた。

こんなこと…、少し考えればわかったことだろ…
ひどく…とてもひどく、傷つけてしまった…
心も、体も…


「ひっく…黙って、ないで、なっ、何とか言えよ!」

泣かしたかったわけじゃない。

「どうして……どうして!」

お前が女と歩いたりするから…

「…ひどいよ…」

でも、これは…許されていい事じゃ…ない。

心と同じように、目線も下へと落ちていく。
固まってしまった視線の先には、フローリングの目地が横に綺麗にならんでいた。





「……たんだ…」

「…なに?」

「英太が…お前が…女の子と……歩いてるのを…見たんだ…」

「…いつ?」

「…さっき…」

ふぅと鼻から大きく息を吐き出す音が聞こえる。
あぁ、呆れられてしまったな…

「で?それと、これが、どう関係するんだよ?」

聞こえた声が少し柔らかくなった気がした。

「……やっぱり、お前は…女の子の方が、良かったんじゃないのか…?」

徐々に声が小さくなるのは自覚していた。情けない―

「なんで?」

更に英太の声に張りが戻りつつある…
形勢逆転だな。

「俺は……お前がいないと、まっすぐに立つことすら…出来ない」

問いに答えていないのはわかっていた。
このまま、これきりになんてしたくない!
繋ぎ止めることが出来るのであれば、なんだってして良いとさえ思えた。

「だから…だから俺を置いていくな!…あの女のところになんか…行かないでくれ!」

言い放った部屋の中に、遠くで救急車のサイレンの音が聞こえる。
それくらいに静まり返った部屋の中の空気が一瞬にして緩んだ――

「いてっ!ちょっ、ちょっと、高元!こっちに来てよ。
体が痛くて…抱きしめたいのに…抱きしめられないから…ついでに手も…」

言われた言葉が信じられなくて、フローリングの目地から視線を外し、苦痛の色を滲ませたままの顔を上げれば、
痛みを堪えながらも起き上がった英太が笑っていた。


「早く!」

せかされる声のままに近寄れば、バスローブの紐を一生懸命に口で解こうとしている。
手が震えているからなかなか解けない。
焦れば焦れるほど、もたもたともつれ、自分で結んだくせにひどく時間を掛けてしまった。
やっと解けた紐を取れば、その手は大きく広げられ、殴られるのではと思い、ぎゅっと目を閉じ、強張った体を――

そのままふわっと抱きしめられた。


ドクンドクンと英太の鼓動が肩に当てた額から響く。

「すっげぇ痛かったし、」

うん

「すっげぇ屈辱的だったし、」

うん

「こんなことは二度とごめんだし、」

うん

「すっげぇ許せなかったけど、」

うん……けど?

「すっげぇ……嬉しかった…」

うれし…か…った…?

ひどいことをしたのに…
自分の勝手でひどく傷つけたのに…

もう一度嬉しかった…と言って優しく優しく髪をなでる。
理解していない俺を理解したのか、

「だって…俺、…すっげぇ思われてるって自信持って良いってことだろ?」

喜んだ意味を理解した口から出たのは、

「…当たり前だ。すまなかった…」

と言う、肯定と謝罪の言葉。

「へへ」

笑った英太の顔が見たくて、体を離せば、

「やっと、自信が持てた気がする…」

「お前は…俺の…俺だけのものだ…」

泣きそうになるのを眉間に皺を寄せて我慢しながら言えば、

「何で泣きそうな顔してんだよ…」

とまたふわっと抱きしめられる。
それに答えてぎゅっと抱き返せば、

「いってぇ!」

「あ…悪い…」


生まれて初めて感じた嫉妬も、生まれて初めて感じた執着も、すべて英太が与えてくれたものだった。

この先、何があろうと離すものか。英太が嫌だと言ったって、そんな事は許しはしない、そう、心に誓った――
もう二度と、傷つけたりしない、とも。




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