初めての… 1





月曜日だと言うのに、飲みに行こうと取引先に言われ、
早く終わるのならばと渋々承諾したのは、それが俺に取っても、会社に取っても利益のあることだと思ったからだ。

それでもいつものように、取引先を乗せたタクシーが角を曲がりきるのを待ってあげた目の先に見えたものを信じたくないと心の底から思った。

英太と小柄な女の子が寄り添って歩く後姿――

この辺りにいるような派手な子ではなく、小さく華奢な体つきで跳ねるように歩き、聞こえてきた笑い声は転がるような心地の良い響きだった。
だから余計に心を騒がせる。

ひょっとして…と。
自分と一緒にいることを時折ひどく自信なさ気にする英太がいることは知っていた。
少ししか変わらない身長でも、下から見上げてくる茶色い目が、迷いを含んでいたことも。
何度も何度も気にするなと言った。
だけど、英太のその気持ちを拭いさってやることは今も出来てはいない。
現に先日も…自分が女っぽくなってしまったのではないのか?と気を揉んでいた…

そんなときに…可愛い女の子から声を掛けられれば、ふらっとすることもあるのではないだろうか…?
自分も男なのだ、抱かれるのではなく、抱きたいと思っているのでは…と。

黒い感情が渦を巻き、大きく大きく自分を巻き込んでいく。
大して飲んでもいないのに、地面がグラグラと揺れている気がした。
だから手を挙げ、道を通り過ぎようとしたタクシーを急いで捕まえ、見なかったことにしようと必死に目を背けた。
あんななりをしたサラリーマンなんて五万といる。
だからあれは、英太ではないのだと自分に言い聞かせ、タクシーの外を流れる景色に目をやった。
キラキラと光る木々たちに巻きつけた電飾が、今はひどく色を失って見える。
モノクロ映画のように色を失った画像を見ながら、

だけど…と思う。

だけど、俺が見間違うはずがない。
幸せにすると誓ったあの日だって、見間違うことなく自分は英太を見つけたのだ。
だからあれは…英太なのだ…

マンションに戻り、そのままの勢いで風呂へと向かい、
服を脱ぎ捨て、熱いシャワーを浴びた。
すべてが流されれば良いというように。
熱い流れが、頭の先から足のつま先までを伝い、排水溝へと流れ込むのを上から見下ろす。
まるで俺の心のように、渦を巻きながら…それでも一緒に流れてくれと願いながら…




シャワーを浴び終え、バスローブを羽織り、タオルで髪を拭きながらリビングに向かう。
ドアを開け、いないと思っていた人物がいると、人は動きを、…止めるらしい。

「なんで帰って来てるのに、こっちの電気点いてないんだよ。
いないのかと思って勝手に入ったら、
靴は脱ぎ散らかしてるし、玄関に鞄とコートは置きっぱなしだし、
電気は点いてない…って…!!!」


とにかく今は離したくない。そう強く思ったから、体が勝手に動いていた。
ソファに座り、ビールを飲んでいた英太を思いっきり背もたれを挟んで腕の中に閉じ込めた。
なのに、閉じ込めた英太の体から、甘ったるい香水の匂いがして…

そこで、俺の理性は吹っ飛んでしまった。

「ちょ!ま…待って…な、何?え?!高元!?」

英太の腕を強く握り、寝室へと引きずりこむ。寝室のドアも閉めぬままに…
慌てた英太が一瞬逃げようとしたから、本能のままにベッドに投げつけ、うつ伏せになった肩を押さえ込んだ。

「ちょ!た、高元…どうし、て!」

後ろから押さえつけた状態で、上着をめくる。その下のシャツを引っ張りだそうとしたときに、英太の上着から小さなメモ紙がパサリと落ちる。
ご丁寧に書かれてある方が上を向き、廊下からの光源でそこに書かれていた数字が見え、先ほどの女の子と重なった。

「…そういう事か…」

「…え?な、何?」

自分でも初めて聞くような低い声が出た。

心の中の悪魔が叫ぶ。

お前は誰のものだ?

誰にも渡したりなどしない!

しっかりと刻みこんでおけ!

英太のシャツを引っ張り出し、ベルトを早急に抜き取り、前のボタンを外す。
ジーっと言う音と共にファスナーを下ろし、下着と一緒にずり下げた。

「待て!待てったら!」

暴れる英太が気に入らず、背中に膝を立てて押さえ込んだ。
そのまま背中の上でバスローブの紐を外し、英太の両手首に無理矢理に結びつけ一括りに纏める。
一瞬あっけにとられた英太が、

「何の真似だよ!いくら高元だって、これは許さない!」

なおも叫ぶ英太をひっくり返し、頭の上でその手を押さえつける。
空いた方の手で顎を持ち、無理矢理に唇を唇で塞ぐ。
噛み付かれるように舌を追い出そうとするが、それを許さないと更に口の奥を舌でまさぐった。
顎に置いた手を英太のそれに持っていき、強く握れば、そんな事は無駄なのだと理解したように力を抜いた。
手はそのままに、唇を離し、首筋に口付ける。
強く吸い上げ、所有の証をくっきりとつける。
鎖骨に移動し、そこにも跡をつけた
いくつもいくつも、跡をつけていく――

「なんで…なんで…たか、もと…」

ひどく弱々しい声が聞こえたが、

お前が悪いんだ!

なんであの女と一緒にいた?!

と責める気持ちが更に湧き上がった。

押さえつけた手をそのままに、馬乗りになった格好でベッドの引き出しからローションを取り出す。
英太の腹に勢いのままに垂らせば、

「ひやっ!」

っと体を大きく跳ねさせた。

腹の上でローションを伸ばし、ついたそれを自身に塗りつける。

「いや!待てって!……それは…あぁ!」

何をされるのかわかった英太がひどく抵抗をしたが、足と足の間に置いた自分の体で押さえつけ、
無理矢理にねじ込んだ。




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