午後の光の入る部屋は、小さな埃がキラキラと舞っていた。
そのキラキラの中を白い煙が、さやさやと流れる。
途中大きくゆらっと揺れて、動きを変える。
面白がって、息を吹きかけたら、少し遅れて、また形を変え、流れを変え、そのうち消えていく。


高元は俺の後ろのダイニングのテーブルで持ち帰った仕事をしている。
出来れば邪魔はしたくない。俺だって、社会人。
出来る奴ほど、こういった努力を惜しまないことも知っている。

随分と勝手がわかってきた部屋。
コーヒーを入れたり、本を読んだり、テレビをつけては面白くないと消してみたり。
つまりは好き勝手にやっていた。

暇だ…

誰だったか、昔問われた言葉を思い出す。
「タバコを吸わない人って、暇なとき何をしているんだろ?」

そのときは自分もタバコを吸うから、暇なときはタバコを吸っていると思った。
そして、今も吸っている。高元のだけど…

吐き出した煙が消えていく。本当は消えてなどなく、部屋の中に滞る。
実際部屋の中は、霞のかかったように白っぽいベールを纏っていた。

高元は俗に言う「出来る男」だと思う。与えられた役割をきちんと果たす男だろう。
いや、それ以上に。
あの沢田物産で、あの若さで今の地位にいるくらいだから…
そう思うと、自分が情けなくもなってくる。

短くなったタバコを灰皿でもみ消し、ソファに横になる。
パチパチとリズムを奏でるキーボードの音を聞いていると、瞼が徐々に重くなる。
自分が横になっているこの時間ですら、仕事をし、前に前に進む高元には俺の気持ちなんて分からないだろう…卑屈になると、きりが無い…




「…いた」

自分の名を呼ぶ声がする。いつの間にか眠っていたらしい。

何となく眠りについたときの感情を思い出し、気づいたけれど起きることはしなかった。
近づいてくる気配。
そっと髪に触れる感触がし、気持ちとは裏腹に体は正直に反応する。
うっすらと開けた目に飛び込んできたのは夕焼けを纏った端正な顔。

「…終わったの?」

寝起き特有の掠れた声で問えば、低い響きの良い声でああと返ってくる。

歪んで胸の辺りに存在する暗い気持ち。
それを悟られたくなくて目をこすりながら起き上がる。
起き上がって出来たスペースに高元が腰を掛ける。

「水」

言ったとたん、自分で行けと含んだ目線が送られる。
俺に翻弄されてくれれば良い。じゃないといつまでたっても追いつけない。
寧ろ、どんどん遠ざかって行く気すらする。

「…いいじゃん。それくらいしてくれたって、家主なんだし……」

卑屈が口からこぼれて行く。止まらない言葉に自分の本当の気持ちを知る。

「……忙しいのはわかるよ。でも、放置しすぎだから…。少しは構ってよ……」

違う。卑屈になっているんじゃない。構って欲しいのだ。子供のように。
気づいた感情に声が小さくなり、顔が赤くなっていくのを隠すように俯いた。
夕焼けの助けで、そう見えなければ良いと願う。

高元が腰を上げて、水を取りに行く。

子供っぽい感情は、煙と同じだ。
胸のあたりに滞る。
まるで、消えているかのように――



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