中毒 外の寒さを想像して、行こうかどうしようか迷っていた。 手元にある箱の中身はあと一本。 コンビニまでは歩いて3分ほど。 どうしようか、我慢しようかと思っているときほど、欲しくて欲しくて手を出しそうになる。 結局、明日の朝起きた時に、買いに行かなければならないことはわかってる。 眠い目をこすりながら、今よりももっと寒い中に行かなければならないことを想像すれば、 今、行っていた方が良いという事もわかっている。 帰りにコンビニに寄って、買えば良かったのだ。 そのときに箱の中身が既に少なくなっていることはわかっていた。 減らしているのは自分しかいないのだから。 考えれば考えるほど行っておいた方が良いことはわかっているのだが、 行動に移そうとすると脳が想像して気を削がれる。 普段、決断は早いほうだし、準備も良い方だ。 調べごとがあって、高元にしては、珍しくすっかり忘れていた。 そして、そんな高元を散々悩ましているもの、それは、 「タバコ」 そして、ふと最近同じように欲しくて、欲しくて仕方の無い存在があったことを思い出した。 そちらはどんなに寒かろうが、眠かろうが、考えるより先に体が勝手に動いていた。 想像以上に厄介で、 タバコと違って欲しいときに欲しい分だけ与えてもらえるものでもない。 コンビニにでも売っていてはくれないだろうか そうすれば、いつでも手に入れられるのに。 その名は「中村」 何を馬鹿げたことを考えてるんだ…と、自分の考えに恥ずかしくなる。 あいつは俺がそんな風に思っていることすら知らないだろうが… いざ、行動に移そうと、ソファの背に掛けてあったコートを手に取る。 と同時にソファに投げ出していた携帯電話が、ヴー、ヴーと震え、 着信を示す青いランプが光る。 表示された名前を見て、口元が綻ぶ。 通話ボタンを押せば、 「俺」 聞こえてきた声に、タバコ云々が吹き飛ばされる。 手に持ったコートをまたソファに掛けた。 「どうした?今、終わったのか?」 と問えば、 「そう。これから行こうと思うんだけど……」 願ったり、叶ったりな返答に、更に顔が緩む。 「ああ、それは構わない。…悪い、タバコを買ってきてくれないか?」 「いいよ」 そう言って切れた電話を、パチンと閉じる。 思わぬ事態に、残り一本のタバコを箱から取り出し、火を点けた。 ゆっくりと、肺に煙を送り込む。 どちらも無いと思うとひどく心もとなく、あると心満たされる。 精神安定剤のようなもの。 そして、それはひどく、中毒性が高いもの― [*前] | [次#] ≪戻る≫ |