影 芸能人ではないから、堂々と外を歩いたって構わない。 人の目が気になるとしたら、明らかに少し前を歩いている男のせいで、 行きかう女性の目が、高元を追っていることくらいは知っている。 上質な黒いコートを着て歩いている様は、男の俺から見てもかっこいい。 そのコートは高元のために作られたんじゃないかとさえ思えてくる。 初めて会った頃より、寒さの増した週末の金曜日。 週末のほとんどを取引先と食事をする高元と、久しぶりに飯を食いに行ったのは例の居酒屋で、 店を出た俺達は、高元のマンションまで歩いていた。 この時間、タクシーを捕まえるのは至難の業。 それを待っているくらいなら、距離は結構あるが、 歩いて帰った方が早いそうだ。 いつもは、タクシーで帰る道を2人で歩く。 酔ってほてった頬に、冬の冷たい風が気持ち良い。 大通りから一本中に入る。会話はほとんど無い。 人気も無い。 前を歩く高元が足を止めた。 俺もつられて足を止める。 少し距離を詰めて寄った高元が、コートのポケットからゆっくりと手を出し、俺に差し出す。 無言でその手を掴んだら、高元のコートのポケットの中へと導かれた。 定番のようなその行動が、気恥ずかしくもあり、 求められたことへの嬉しさもある。 このために一本、中の道へ入ったのだろうか… 街灯が灯す明かりが等間隔に見える。 後ろめたさから、顔が自然と下を向いた俺の視界に、 大きな影が入ってくる。 隣の男は、俺よりもずっと先を歩いてる。 たった4年。けれど4年。 追いつけることなんてあるのだろうか。 大きく聳え立つ高元の背中に、 追いつき、追い越すこと。 肩を並べて歩くということ。 街灯の明かりがアスファルトに映し出す影は、何も写さない。 大きく伸びるその影は、身長でさえ同じに見える。 いつか、こんな風に、肩を並べて―― [*前] | [次#] ≪戻る≫ |