Un présent de Père Noël 〜 サンタからの贈り物 〜 「長居をしてしまいましたね。それでは、失礼します。お大事に」 そう言って、高元は引き戸のドアをゆっくりと閉めた。 消毒の匂いが充満した廊下を歩きながら、自分はうまく笑えていたかと不安になった。 佐藤に会うのは実に3年ぶりであった。 しかし、以前の面影もなくなった佐藤の気弱な顔をみていると、企業の中で働くというのは、 駒の1つだと思わざるを得ない。 現に佐藤がいなくなったと言われても、実業には何一つ支障をきたしてはいなかった。 誰に代わっても何も変わらない。 自分もその駒の1つだと思うと、これから先の事が少しだけ面倒だなとも思う。 病院の自動ドアを出た。急激に熱を奪うような冷たい風に頬をなでられ、思わず目をつぶる。 芯から冷えてしまいそうな空気と、どこか楽しげな雰囲気。 浮き足立っているようにさえ感じられることが、 先ほどの佐藤の病室の空気との違いに、安堵のため息さえでた。 佐藤の変わりに自分がその席に座る。そういわれたのは今月の中頃だった。 急に言い渡された会社の辞令は独身の自分が単に異動しやすく、所帯を持っているものではないから、 特には意味もなく駒の1つとしての事であろう。 実際に簡単なものでもあった。会社に入ったときから、異動の多いことは知っていた。 だから、手持ちの荷物はなるべく少なくと思っていた。 仕事も出来るほうだと自負している。会社にとって自分は果たすべきものを果たしてきた。 だが、先ほどの佐藤のことを思うと、果たしたところで、会社にとっては当たり前のことなのだ。 駅に続く道を歩きながら、薬局の横を通りすぎる。 聞こえてきた音楽に、赤い鼻をしたトナカイは、サンタにとって、無くてはならない存在であった。 自分も誰かのそんな存在になれるのだろうか? ふと見上げたビルの間の空から、ちらちらと白いものが降り始めた。 思わず、足を止めて見入ってしまった。昔見た映画を思い出した。 「初雪か…」 こぼれた言葉にびっくりする人の気配を感じ、左側に顔を向けた。 どうしたものか…涙を流し、鼻水も垂れそうで、何とも情けない顔をした男。 その顔を見て、思い出した映画の台詞が頭の中を駆け巡り、口からこぼれていた… 「初雪を一緒に見たら、結ばれる…って言っても男同士じゃあり得ないか」 コートのポケットに入っていたハンカチを彼の手に持たせ、 「何があったか知らないけど……風邪引くなよ。Merry X'mas」 普段なら、気にもせずに通り過ぎる。 佐藤の事で、少し感傷的になっているのかもしれない。 自分にも必ずいるはずだ。彼にだっているはず…。 駒ではなく、その人にとってなくてはならない存在に。 街はキラキラとして希望にあふれ、楽しそうに行きかう恋人達。 その中を歩きながら、暗かった気持ちが少しだけ浮上した気がした。 妙に印象に残ってしまった男の顔を思い出しながら、 二度と会うことはないだろうと振り返ることなく、 駅へと足を向けた… それでも、頭の中を駆け巡る。 初雪を一緒に見たら…と。 [*前] | [次#] ≪戻る≫ |