街を歩けば





高元が風邪をひいた。

すべてが完璧な男が、風邪をひく。

日頃から、体調管理は立派な仕事のうちだ!とか言っていたから、
何となく、そこを逆手にとって冷やかしてやりたいところなんだけど、計算したように連休の初日。
さすがって言えば、さすがなんだけど…

「じゃあ、行ってくる」


高元のマンションを出て、少し歩いて行ったところに薬局がある。

トナカイの曲はもう聞こえない。

そこに入って、症状別に並べられた薬を見る。

多いなぁ。どれが良いんだ?
熱も出てるし、咳もしてる。喉もガラガラだったし…

と悩んでいると、手にバインダーを持ち、棚をチェックしている人がいる。
店員さん?どこか、違うような気がしないでもない。
だって、スーツだし…

でも…関係者には間違いないか!

「すみません、あの、風邪薬を選んでるんですけどわからなくて…」

声を掛けた人物が振り返る。
高元とは違うタイプのイケメン…

「あ、はい。症状は?」

「熱があって、咳もしてて、喉もガラガラで、あと、鼻水も…」

「それじゃあ、こちらの総合薬が良いかと…」

そう言って、棚の中から1つ選んでくれる。

「ありがとうございます」

礼を言うと、彼は、また棚をチェックしだした。
レジに向かっていると、後ろから、店の人が彼を呼ぶ。

「倉田さん、これのサンプルってありますか?」

ふーん、倉田さんって言うのか。かっこ良かったな。
あの人も仕事できそうだな…

会計を済ませ、途中コンビニに寄る。
いつも行ってたコンビニは避けた。
あそこは、真由子との遭遇率がやたらと高い気がする。
住宅街にあるコンビニに入る。

ぎょっとした。

レジにいる人物が、いくらコンビニだからって、トサカはないだろう?しかも、金髪。
ありえねぇ。とそこへ、

「俺がお前に奢るっていつ言った?」
「いいじゃん!買ってくれたって!この間の膝かっくんで俺は恥をかいたんだから!」
「それ、いつまで言ってんだよ〜」
「一緒に食べようよ!これ一口あげるから〜」

良い年をした男同士の会話にしては、何となく幼稚な会話が聞こえるけど、
そこは無視。


額にピタっと貼ってヒヤッとするというCMでも有名なあれと、
海外ではこの名前では売っていない訳すとなんたら汗っていう名前の飲料と手にとった。
食欲がなくても食べなきゃ薬が飲めないから、
プリンを買おうと棚に行きこれで良いかと手を伸ばしたら、横からにょきっと腕が伸びる。
そして、棚にあったプリンを次々と取っていく。

は?

慌てて横を見て、自分の目をこする。
あれ?男前なんだけど!高元バリにモデル体型なんだけど…

何だか幼そうに見えるのは俺の気のせいか???

そして、楽しそうにレジに向かう。

「シゲ!棚にあったプリン全部買っちゃった!」
「先生、また大輔に怒られますよ。良いんですか?しかも、また、棚に並べるの俺なのに…」
「内緒だよ!絶対に言わないでよ!あ!この間アイス買ったときのは内緒にしてくれたから、シゲにも一個あげる〜!」

子供に見える…

俺よりは年下だろうけど、俺よりも背が高くて、俺よりもイケメンなのに、子供に見える!
でも、先生って…?

「内緒だからね!じゃあ、またね!」

そう言って出て行った。
仕方がないので、ヨーグルトを2つ手にしてレジに行く。
俺の思考を読み取るように、

「あ!プリンが良かったですか?すぐに出しますけど!」

「いや、ヨーグルトで良いですよ」

「そうっスか。すみません」

そう言ってテキパキと袋に詰めていく。
袋を渡しながら、ニカっと笑って、

「ありがとうございました!またのお越しを!」

と元気に言われる。うん、人は見た目で判断しちゃダメだよな!
高元が部下に欲しいとか言いそうだな…うちの池田をやるって言うの!
と、考えながら、ドアに向かう。
店を出る直前に、女の子が駆け込んでくる。

「シゲさ〜ん!廃棄のお弁当余ってませんかーーー!!!」

え?廃棄の弁当って、食べちゃいけないんじゃないの?

「めぐみちゃん!そういうのは小さい声で言ってよ…お客さんいらっしゃるんだから…」

あぁ、やっぱり。聞いてないことにしよう!うん。
そう思って、コンビニを後にする。

しばらく歩いていると、八百屋が見えてくる。
ここの野菜はスーパーよりは高いけど、1人暮らしをしてる俺とか高元にはありがたい良心的なお店だ。
袋に入ってても、1つから売ってくれるから。
店主がまた、人が良いって言うのを体全体で表現してるような人。

「こんにちは」

いつものように気さくに声を掛けてくれる。

「こんにちは。あの、風邪に良いものってありますか?」

「高元さん、風邪引かれたんですか?」

「あ、うん」

ほら、お客さんの名前までしっかりと覚えてくれてる。
スーパーよりは値がはるけど、こういった心が通う付き合いっていうのは中々できるものじゃないんだ。
って高元が言ってた。

色々と見繕ってくれて、トン汁の作り方まで、教えてくれた。
やっぱり良い人だな。


八百屋を後にし、大通りに出て、歩き出せば、少し前に黒塗りの高級車が止まる。
運転手が出てきて、ドアを開ける。

はぁ、世の中は不景気だって言うのに…

「帰りはまた電話する」
「かしこまりました」

歩き出すイケメン。体中から色気とか、育ちの良さとか醸し出してて、根本的な違いを見せ付けられた気がする…

と、すぐにまた後ろに高級車が止まる。

「待てよ!柊!」

飛び出すように出てきて、先ほどの男を呼び止める。
こちらも負けず劣らすなオーラが漂ってるんだけど…いかんせん、美男が怒ってるというのは迫力がある。
まったく取り合わない先の男に焦れて、後から来た方はまた車に乗り込み、去って行く…
残されたほうは、何だか寂しそう…

じゃあ、一緒に行けばよかったのに…


街の中を見渡す。普段は高元と歩く事が多いからか、周りの事なんて気にもしていなかった。
1人でいれば色々と目にもする。
例えば、あそこにいる超デカイ、ピンクのスーツのお姉さんとか…え!?ピンクのスーツのお姉さん!?
オカマだ。絶対にオカマだ。でも、まぁ、顔はきれいだよな…顔は。
カツカツとヒールを鳴らして、肩で風を切って歩いて行く。

と、色々な発見もあるわけだ。
高元に教えてやろう!

意外に重くなった荷物を手にとぼとぼと歩く。
と、急に雨が降り出した。

やばい!俺が風邪引く。

そう思って、店の軒先で雨宿り。
と思っていた俺の耳に、

「お待ち下さい、時雨様」
「私に触れたいのなら、お前が上に乗れば良いだろう」
「あら、そうですね。では、ちょっと失礼…」

と、道の植木のカタツムリで遊ぶ……男子一名。
大丈夫か?何か怪しい薬とかやってんじゃないだろうか…?
と少し不安になる。
すると、

「菖蒲、皆が怪しんでる。帰るぞ」

と保護者が登場。怪しんでる俺の視線に気づいたのか、

「気にしないで下さい。いつもの事なので…」

と、2人寄り沿って1つの傘に入って歩き出す。
いつもの事…大変だな。でも、あれは、あれで、絵になるよな…
と背中を見送っていると、今度は向かい側から、高校生の男子2人が相合傘…。

急に降りだしたから、相合傘率が高いな…。にしても、初々しいな。って友達同士だろ?
高元と付き合いだしてから、男の二人連れを見ると、ゲイだと思ってしまう…
やばいぞ、俺。気をつけろ!


しばらくすれば、雨も止み、歩き出す。

と、目を引いたのは前からまたしてもやってきた高校生。ガラは良くないにしても、かっこいいな。
と、後ろには真面目です!と絵に描いたような高校生。
かわいいよ。うん。あれって進学校の制服だよな。まさか…カツアゲとかされてないよな?
と心配になってはみたものの、それを知る術はない。

思っていた以上に時間を使ってしまったけれど、久しぶりにゆっくりと街の中を歩いた気がする。
たまには、1人も良いよな。
ちょっとしか違わないけど、デカイのが隣にいると見晴らし悪いし…

と強がってはみたものの、何だか急に寂しくなった。
両手一杯に持った袋を握り締め、一気に高元のマンションまで走る。

そのとき、視界の端に見えたもので、寂しさよりも何よりも…


バタンと勢い込んで入った高元の部屋。
寝室のベッドはもぬけの殻。

「高元ー!!」

と叫べば、

「こっち」

と声がするのは、リビングで、行けば、毛布に包まる高元がいた。

「遅いから、心配したけど…って買いすぎだろ?」

「いいから!早く!」

と持っていた袋をそこに置き、出た先はベランダ。そこから、雨上がりの空に七色にかかる虹が見えた。

「虹か……は、は、はっくしょん!!」

「あぁ、ごめん。こじらせるな。入ろ」

と手を取れば、引き寄せられ、

「いや、もう少し見よう」

と、高元の腕の中に閉じ込められる。
後ろから覆いかぶさるようにして高元の熱を感じる。
熱い。
やっぱり、高元が一緒が良いな。
早く元気になってもらおう。

そう思っていたけれど、たまにしか見れない虹をしばらく見ていた。

開けっ放しのリビングの窓から聞こえてきたのは、

「リサちゃん!この春の流行のコーディネートは?」
「今年の春はですね〜」

と言う、点けっ放しのテレビから流れる、最近売り出し中のモデルの子の声だった。



湯川さんに教えてもらった通り、作ったトン汁は最高においしかったけれど…

「今度は俺が買いだしか…」

結局、俺が風邪を引いてしまった…



〜END〜



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