春は誰にでもやってくる 2月14日。 今日はバレンタインデー。 入口に一番近い棚はバレンタイン仕様に飾り付けされているが、当日ともなれば色褪せてくる。 今日中に売りさばかなければいけないチョコは残りわずか。 ボリュームはないし、今更慌てて用意する人もいないから本当にお飾りでしかない。 それにコンビニで売っているチョコなんて、見るからに義理かお父さん用にしか見えない。これは俺の偏見か? 義理ならいっそ……と、包装されたチョコが減ってきた下段に、買い物に来ただけの大輔が並べていったらしいアーモンドチョコやチロルチョコの方が売れている。 うーん、確かに。どこのブランドか分からないけど値段だけは立派なチョコより、信頼できる大手企業が年中生産しているチョコの方が安全だし気軽に食べやすい。 まぁ、そんなことを思っても口には出さない。義理でもお祝いでもチョコを用意してくれた女性に失礼だから。 今日レジに立っていて今までにないってくらい、イヤたぶん一生こんなに貰えることはないだろうってくらい俺はチョコを貰っている。 「俺ってもてるんだ!」なんて痛い勘違いはしない。 この一年で知り合った人、世話になった人、親しくなった人の数は多い。 なによりも、一昨日は受験した大学の合格発表だったから。 「おめでとう」と一緒にチョコを渡されるとかなり嬉しくて参る。 朝一で澪ちゃんと舞ちゃんが来た。 俺と大輔にってチョコを二個ずつ置いていった。月末になると金がないって騒ぐ女子高生のくせに無理しちゃって。 冗談なのか本気なのか、二人は大輔に渡す分を「本命だから」と言っていた。 俺にそれを伝えろってか? 今一番頑張っている人間にそんな爆弾を持っていけない。 大輔のシフトは正月から一回も入っていない。 本番を目の前に控え、勉強に専念している。 受験生っていうのは俺も同じだったけど大輔とはレベルが違う。センターに受かれば大学合格したと同じの俺とは違いすぎる。 俺も大輔には随分会っていない。初詣以来かな、なんて考えながら時計を見た。 大輔は、今日の夕方にコンビニに来ると言っていた。 待ち合わせがあるんだと。誰と、とは言わなかったけど俺には分かる。 忙しい大輔を外に引っ張り出すことが出来るのはあの人しかいない。 お願いされて、嫌な顔をして、嫌味の一言二言を零しても結局は動くんだから、 なんだかんだ言いつつ大輔は甘いと思う。 何事もなく今日という日が過ぎればいい。 外の空気はまだ冷たいけれど、誰に対してもいい春が訪れるといい。 店内に客がいないことを確認して、俺はレジの奥に一歩入った。 自動ドアの音がすればすぐに出られる場所。チョコが集まった紙袋の中から一つだけ異色の袋を取り出す。 義理ともお祝いとも取れない甘納豆。小梅さんが置いていった。 あまりにもウケたから今食ってやる。 そうして甘い粒を一つまみし、慣れない甘さに顔を顰めた時、自動ドアが開いた。 「シ〜ゲさ〜ん!」 メグミちゃんの声だ。 はいはい今日は忙しいな、なんて思いながらも頬は緩む。 バレンタインデーにチョコを貰って嬉しくない男はいない。 「はい」というポーズで差し出されたメグミちゃんの手は、空だった。 「…………なに?」 俺が怪訝に聞くと、 「えへッ。シゲさん、お腹空きました」 にっこり笑顔で言われた。 レジから一歩奥に入った所で、開封したての甘納豆とお好みのチョコを思う存分頬張るメグミちゃんを見守りつつ、 俺も大概甘いな、と思った。 --END-- はぴちゃんありがとう!!! 大好きなシゲ!!!嬉しすぎる〜!!! シゲは、はぴちゃんの小説の「多重恋愛」の登場人物です。 主人公の大輔と同じコンビニでバイトをしているんだけど、もう、部下に欲しい!と思う程の好青年!!! 脇役でもキラリと光ってます! 『キミはいつでも、愛すべききみ』で、じっくりと読んでください!はまりますよ〜(笑) [*前] | [次#] ≪戻る≫ |