In the Dark 3





「ふっ……おいしそうですね」

そう言って、唇を当てられ、思った以上に熱い舌が舐めて、転がして、時折きゅっと甘く噛まれる。
反対側は指で捏ねられ、どんどんと熱が下半身に集中する。

「あっ……んっ……やま、もとっ……」

「はい。ここじゃ狭いんで、後ろに……」

バタンと助手席のシートが倒され、後部座席に引きずられるようにして連れて行かれる。
シートにそのまま組み敷かれ、再び山本が覆いかぶさってくる。
さっきの続きとばかりに乳首ばかりを攻め立てられ、下半身はきついくらいになってきた。

「し、た、触って……」

「待って……何にもないんで……俺が一回先に」

山本の意図が読み取れ、そんなにしたことのないあれをやってみようかという気になってくる。
そっと手を伸ばして、山本のスラックスの上から触れると、そこも自分以上に昂ぶっていることがわかった。

「俺が、する、から」

「え」

肘で起き上がり、山本の肩を押してシートに座らせる。
思った以上に広い後部座席の足元に体を滑り込ませ、ベルトのバックルに手をかける。

「坂田さん!?」

思っても居なかったのか、素っ頓狂な声を上げる山本に「したいから」と早口で伝えると、「じゃ、じゃあ、お願いします」と上ずった声が返ってきた。

ベルトを外し、ファスナーを下ろす。
普段山本にされていることを自分もすれば良いだけなのだが、じーっと見られると緊張する。

「見るな」

「えっ……わかりました……」

空いて出来た隙間に手を差し込み、下着の上からそっと触る。
既に熱くて硬くなったそこの感触を確かめるようになぞると、山本がもぞもぞと動く。

「う、動くなよ」

「それは……無理ですって。もうちょっと強く触ってもらわないと……」

「うっ……うん。わかった」

下着をずらして、そっと握って、グッと引っ張り出すと、さすが若さというか、なんと言うか……
スポンっと音がしそうな勢いで飛び出し、目の前でゆらゆらと揺れる。

手を添えると「うっ」と言う山本のうめき声が聞こえた。

いつも山本は……と、思い出すようにして、そっと手を上下に動かす。
手の中でぴくぴくと震えるそれが、更に硬度を増すのがわかった。
見た目は何ともグロテスクなのに、愛しいと思えてくるから不思議だった。
手を上下に動かしながら、そっと先端を口に含んで、舌先でぺろぺろと舐めてみる。
苦い先走りが、舐めた先から溢れてきて、それが唾液を誘って、手を動かす度にくちゃくちゃと音を立てる。
裏筋を強く刺激すると、更に大きくなるのがわかって、感じてくれているんだなと実感した。
手と口の動きを増すと、髪に山本の大きな手が差し込まれ、ぎゅっと掴まれる。
「はぁ……は、あっ……」という漏れる吐息に、自分も煽られ、もっともっと感じて欲しいと思うようになる。
そうすると、髪を掴んでいる山本の手も強くなり、車内にくちゅくちゅと言う音が広がった。

「あ……も、いきそっ」

一際ぎゅっと髪の毛を掴まれる感触がして、頭をぶんぶんと振られ、何をするんだ!苦しいじゃないか!と思ったとき、口腔内に熱い飛沫が叩きつけられる。

「くっ」

「んっ……」

飲み込みそうになるのを堪え、すべて口の中で受け止めると、頭から手を離し、脇に手を入れて膝立ちにされ、ぎゅっと抱きしめられる。
耳のすぐ横ではぁはぁと荒い息遣いが聞こえ、「気持ち良かった〜」と言う感想を聞くけど、口の中のものがあるので、言葉を発することも出来ない。

「んー、んんんんー」

「あ……ごめんなさい」

そっと体を離され、はい、出してと手を差し出され、ぎょっとしながら、その手のひらに口の中のものを吐き出す。

「気持ち悪かったでしょ?」

「……何か、喉がイガイガする……」

「次は、坂田さんの番ですよ。協力してくださいね」

と、やけに事務的で、ムードも何もない言葉を掛けられる。
これも付き合いが長くなった証拠なのだろうか……

そんなことを思っていると、「脱いでください」と言われ、何となく恥ずかしいと思いながら、渋々ジーンズと下着を一緒に下ろす。

「後ろを向いて」

お医者さんのような口調で言われて、後部座席の背もたれに掴まるような格好になる。
そこに先ほど吐き出したものを塗り付けられ、「んっ」と声が上がる。

「ちょっと苦しいかもしれませんけど……」

解すような動きをした後、そっと指先がつぷりと入り込んでくる。
その感触は今でも慣れることがなくて、ぎゅっと目を瞑ってやり過ごす。
背中から山本が覆いかぶさり、空いている手が、胸やわき腹をそっと撫でる。
時折、立ち上がった小さな突起をぎゅっと摘まれる。
その動きと、広げるようにくるくると円を描きながら指の感触に、違和感しか感じなかったそれが、徐々に快感に変わり、「あっ……んっ……」と声が上がる。
そっと指が2本に増やされ、持ち上がってきた前の先走りも合わさって、ぐちゅぐちゅと音がする。

「あっ……も、もう……はっ」

「もう、少し。まだ痛いですって」

「だっ……もう、いいからっ……はぁ」

「……じゃあ……」

入り込んでいた指をそっと抜かれる感触にも感じて声が上がった。
さっき吐き出したばかりにも関わらず、既に回復した熱いものがそこに当てられる。
塗りつけるようにして、数回擦られた後、ぐっと宛がわれて、上がっていた息を潜めてその衝撃に耐える。

「息、止めないで。吐き出し、てっ」

山本も苦しいのか、食いしばるような声を出した。

「はっ……はっ……はぁ……んんっ」

言われた通りに息を吐き出しているのに、いつも以上に進みの悪いのは、準備をしていないからなのか。
いつもと違うシチュエーションにどこか二人ともが昂ぶっているからなのか……

「あっ……」

「入ったぁ〜……はぁ」

やっとすべてを飲み込んだときには、汗が全身から噴出していた。
その熱い体を、後ろから山本がぎゅっと抱きしめてくる。

「さすがに、……きついですね」

「……うん」

慣れるまでじっとしていてくれて、タイミングを計るようにして、山本が腰を引いて動きだす。
ゆっくりとした動きが、徐々に早さを増して、すんなりとスムーズになる。
そうなると、その動きに駆け上がるのが快感だけになり、知らず知らずのうちに腰が動く。

「はっ……はっ……」

山本の息遣いが耳のすぐ後ろで聞こえて、更に煽られる。
動きに合わせて、何となく車もぎしぎしと動いているような気がするけれど、そんなことすら気にすることが出来なくなった。

「あっ……もっ……いきそ……」

シートに掛けてしまうのが嫌で訴えると、山本にそっと握られる。
腰の動きに合わせて、扱かれる感触に、どんどんと登りつめていくのがわかった。

「俺も……」

山本の動きが早くなる。
視界が快感で浮かんだ涙でぼやけて、もう限界はすぐそこだった。
そうして、最奥に届かんとばかりに叩きつけられ、熱い飛沫を体の奥に感じた瞬間、俺も山本の手の中に放っていた。

二人揃って崩折れ、はぁはぁと言う吐息が狭い車内に重なるようにして響いた。
窓ガラスは曇り、その中を蛍が更に幻想的に飛んでいるのが、ほわりほわりと見えていた。






「俺の実家ってすごい田舎で、家の中から蛍が見えるんですよ」

衣服を整え、それでも何となく離れがたくて、後部座席に二人並んで座って、フロントガラスから見える蛍の光を目で追っていると山本が話しだす。

「小学生の頃とか、火垂るの墓の映画みたいにたくさん採って来て、部屋の中で放して、次の日お袋にすごい剣幕で怒られたりしたんですよ」

「あははは」

「蛍って、夜見ると綺麗なんですけど、昼見るとゴキブリみたいじゃないですか?」

「うん」

「だから、ねーちゃんとか、最高に怒ってましたね」

「だろうな」

虫の中でもゆっくりと動く蛍は、さぞ捕まえやすかっただろう。

「来年も、来ましょうね」

「うん」

これから先のことなんてこれっぽちも保障はない。
だけど、そういう小さな約束の一つ一つが、今の自分たちにとって、目標であり、進んでいくための指針である気がする。
だから、どうか、来年も……
ここまで激しいのはちょっとあれだけど……一緒に見る相手が、山本でありますように……

蛍の光に願いを掛けながら……










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