14 認めた瞬間に溢れだした感情をどうしたら良いのかわからなかった。 口付けはどんどん深くなる。触れるだけだった唇が間を割って舌がぬるりと入って来た。 貪るように暴れる舌のせいで、飲み切れなくなった唾液が顎を伝う感触と、 そうじゃなくてもアルコールで早い心臓の動きに、息が苦しくなって、山本の胸板を叩いた。 そこで漸く離れた唇は、お互いの唾液でキラキラと扇情的に光っていた。 その唇がはぁと一息ついた。 「風呂……入りますか?」 言われて次に何を期待されているのか悟った。 23歳。そりゃあそうだよな…と思う。 それにはやっぱり相当の覚悟が必要で、うんと頷くまでに時間が必要だった。 長い時間の後、頷いて、立ち上がりかけたところで、足に力が入らなくて、無様に転びそうになる。 「危ない!」 咄嗟に支えられて、ホッとしたのも束の間、 「一緒に入りますか?」 にやけた顔で言われて、カーっと顔に血液が集中しだした。 が、担ぎ上げられるようにして、脱衣所まで行かれて、俺を下ろすなり、さっさと脱ぎだしてしまった山本を見ていると、恥ずかしがるほうが恥ずかしいのかもしれない……と思い出した。 ひょっとしたら、本当に風呂に入るって意味で、その後のこととか考えてないのかもしれない…… そう思うと、自分一人が先読みしたり、深読みしたりしていることに羞恥を覚えた。 山本を見習うようにして、さっさと服を脱ぎ捨てたまでは良かった。 だけどどうにも足に力は入らない。山本を呼んで、支えられながら浴室に入れば、 そこは既にうっすらと湯気で曇っていた。 正直山本という人物の事を忘れていた。 シャワーを浴びただけで、ドライヤーまで掛けるような男だった。 その山本が何もしないなんてことの方がおかしいのだ。 バスタブの縁に座らされ、シャンプーから始まり、体の隅の隅まで洗いだした。 その間の攻防戦は疲れる以外の何物でもなくて、さすがに前を洗おうとした手は寸でのところで止めることが出来たけれど、他はすべて山本の手によって洗われた。 酔っているから、浸かることは避けた方が良いと言われ、そうそうに風呂からでる。 そこでもタオルで隅から隅までしっかりと拭かれ、着替えがないと気づいたけれど、タオルを腰に巻いただけで、担がれるようにしてベッドまで連れて行かれた。 正直ぐったりした。 それでも、髪を乾かさないと風邪をひくからとドライヤーまで掛けられれば、眠気はピークで、ベッドに横たえられて、目を瞑ればいつでも眠れるような気がした。 俺の面倒をそこそこに山本はもう一度シャワーだけ浴び直しに行った。 眠っても良いですよと言われたが、何とか起きていた。 バタンと音がして、脱衣所から山本が出てくる。 俺と同じようにタオルを腰に巻いただけの格好なのに、引き締まった上半身はまったく異なるものだった。 あれが男の体だよな…… 貧弱な自分の体と比べたところで仕方がない。 そうしていると電気がパチリと消され、山本が近づいてくる。 ドキドキと心臓が早鐘を打ち出し、処女の少女はきっとこんな気持ちなのだろうと変な悟りを開きつつあった。 ベッドの横の間接照明だけがつけられ、ベッドがギシっと音を立てる。 近づいてきた山本の気配に体が硬直する。 「……まだ起きてたんですか?」 顔を覗き込んできた山本がベッドの中に滑り込む。 と同時にゆっくりと体を拘束され、唇をふさがれる。 それが始まりの合図のように、徐々に口付けが深くなった。 触れた体温は俺よりも低くて、飲みすぎた体は酷く熱を持っていた。 さっきと同じように、ゆっくりゆっくりと味わうように貪られて、意識が遠のきだす。 山本の手がすーっと体のラインをなぞる。 その感触に体がビクリと跳ねた。 「っん!」 唇を離すことなくされる行為のせいで、鼻から抜けるような吐息が漏れる。 撫でていた手が、胸の先に到達する。 与えられるだけの快感では満足できないのが男の性らしく、自分からも仕掛けていく。 気づけば、二人でベッドの上をじゃれあい、もつれ合っていた。 何度か上になったり下になったりを繰り返して、下になったところで、山本の指が後ろに回ってきた。 言おうかどうしようか迷った。 俺だって男だ。何で好き好んで女役を引き受けなきゃならない…… だけど、山本を組み敷くことも考えられなければ、満足させてやれることの出来そうになかった。 だから、入ってくる異物の感触に我慢した。 ゆっくりと馴らされ、それでも気持ちよくなんか一つもない。 それなのに、この行為を我慢できたのは「他の誰にも取られたくい」と思う気持ちだけだった。 この気持ちが「好き」なのかどうなのかは今でもわからない。 当てられたものに体が硬直した。 「……力抜いて……」 そう言われてもどう抜いて良いのか良くわからない。 ゆっくりゆっくり入ってくる大きさに、痛いと何度も声を上げた。 その度に山本は止まって、頭や頬を撫で、キスを落とす。 全部入ったと聞いても、痛くて動かないで欲しいと願った。 少しずつゆっくりと動きだした。体が持っていかれるような、中を引きずられるような感触に、快感なんて何一つないような気がした。 揺さぶられ、意識が遠のきだしたときに中心をつかまれた。 直接与えられる快感に一気に意識を持っていかれる。 登りつめた快感は山本の手の中で弾けた。 少し遅れて、耳元で小さな声で「明穂」と呼ばれ山本が達したことを知った。 最近呼ばれることのなかった名前を、山本が呼んでくれたことに満足して、 独特の気だるさと共にやってきた睡魔の波に飲まれていった。 明け方近く寝返りを打とうとして、体が動かないことで開けたくない目を開けた。 後ろからしっかりと体に回る腕を認識して、 何日か前にもこんなことがあったな……と思い出す。 包まれるような温かさの中で、回された腕を少し浮かせて、向き合うような形になる。 体中が痛くて仕方なかったけれど、どうしても向き合いたかった。 間近で見た山本の寝顔はやっぱりどこか幼い印象がある。 鼻にキスを一つ落として、 「好きだ」 と小さく呟いた。 自分を包む大きな胸に顔を擦り付けるようにしてまた、深い眠りに落ちていく。 大きく包む体が実は起きていたことを知らないままに――― 〜END〜 [*前] | [次#] ≪戻る≫ |