そうして二人にやって来るのが同じ朝でありますように
う〜ん、と寝返りを打つ。寝苦しさに目を覚ますと枕元で携帯が震えていた。名前を見ると真波山岳と表示されている。時刻は深夜1時を回ったところ。こんな時間に何の用なのだろう。常識的な時間じゃない、とは言っても真波にそんな真っ当な考え自体があるのかも甚だ疑問ではある。
鳴りっぱなしの携帯にメールだと思っていた通知は着信の方だったらしい。通話ボタンを押すと夜中なのに明朗とした声が機械越しに響く。
「もしもし、真波?何時だと思ってるの。」
「それよりさ、山へ行こう。」
「いつ行くの?」
「今からに決まってるじゃん。」
「何言ってるの?私寝てるんだけど。」
「もう家の前に居るんだ。だから早く降りてきて。」
「ちょっと真波!」
私が訴える前に電話を切られてしまったらしく電子音しか聞こえなくなっていた。明日着ようと準備して掛けてあったワンピースに着替え、夜だから冷えるかな、と適当にカーディガンを引っかける。
両親を起こさないようにそろりそろりと階段を降りたけれど、細心の注意を払っていても隣同士の部屋で寝ているお姉ちゃんには気づかれてしまったかもしれない。ドアを開けると本当に真波がいた。
「あれ、早かったね。」
ハンドルにうつぶせて顎を支えた真波がさも驚いていないかのように言った。呼び付けておいてこの他人事。
「今何時だと思ってるの、急すぎる」
「早く行こうよ。」
そんなに楽しそうな顔で言われたら怒ろうと並べていた言葉も喉につっかえてしまう。私がしょうがないなぁって赤い自転車を引っ張ってくるのを分かっている。なんてたちの悪い確信犯だ。

「最近部活どうなの?おばさんから忙しそうにしてるって聞いてるけど。」
「楽しいよ。」
「楽しいの?」
真波からそんなに純粋な感想が返ってくるなんて予想外れだった。私の知らない時間。
「ナマエはどうなの?」
そう聞かれて何となく口を噤んでしまった。疚しいことなんてなにもないけれど、私には真波みたいになにか特別に話せることもないし、至って普通。そんな話をして一体どうしようというのか。結局口をついたのはなかなか上手くやってるよ、と当たり障りなく暈した言葉だった。私に合わせて山道を押してくれている自転車とカラカラとタイヤが回る音が耳に残った。
少し伸びたハネ気味の髪を辿って隣で自転車を押す真波を見上げる。意外と身長高かったんだなぁ。目線がかち合わないようにあくまでこっそりと盗み見ていると急に歩みが止まった。

「ナマエ、見て。」
「え、何を?」
「上」
見上げると満点の星空が広がっていた。真っ暗な中に吸い込まれるかと思うくらい、綺麗に散りばめられた星々に瞬きをするのも勿体無い。
「この辺が山頂だよ。」
「すごく綺麗、ありがとう真波。」
横顔を視界にいれながら告げる。夜中に急に呼び出されたことなど毛頭意識になくなっていた。私にこれを見せたかったんだなぁって思うと何だかじんわりと温かいものが駆け巡った。詳しければあの星を結んで星座を作れたのかなって思いを馳せる。
「星座とか詳しいっけ?」
「誰も見つけてない星には、見つけた人が好きな名前をつけられるんだよ。俺は、そんな星を見つけて君の名前を付けたいな。」
よくも恥ずかしいセリフをこうもつらつら言えるものだなって、聞いている方がどぎまぎしてしまった。真波の事だから思いつきで変な名前を出してくると思ったのにどういう意図だろう。取り零してしまいたくないと目を逸らさずに見つめ返す。真っ直ぐに見据えてくる真波の目はキラキラと光を吸い込んでいた。
「もしかして、さみしいの?」
瞬き一つ。ギュッと光が閉じ込められてまた吸い込まれていく。
「別にそんなことしなくたって私はずっと真波と一緒にいるよ。」
こつんとおでこをぶつけると自転車がガシャンと音を立てて倒れた。



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題名は花畑心中様よりお借りしております。






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