お客さんちょっと、
「いらっしゃいませー」

今日も私は放課後をバイトで潰す。遊びたくないと言ったら嘘になるけど、そうでもしなきゃ色々厳しいから我慢しているのだ。高校入学とほぼ同時に始めたこのバイトに愛着も湧き、営業スマイルも板についてきた。

総北高校がある坂の下あたりに位置するこのコンビニは、いつも総北生にご贔屓にしてもらっている。特に多いのが自転車部?の人たちだ。自転車部とか別世界すぎる。
眼鏡とイケメン、赤髪、鬼太郎、ふわふわ、お父さん、田所パンの息子さん、そして奇抜な常連さん。かなり個性的だ。最後の人は本当にインパクトが強い。

「(また高めの限定スイーツ買いやがった…!)650円になります。スプーンおつけいたしましょうか」
「お願いするっショ」
「5000円お預かりいたします(もっと細かいのないのかよ、ブルジョワ?ブルジョワなの?)…4350円のお返しになります。ありがとうございました」

色々目に痛い髪色、どこに売ってるのか突っ込みたくなる服と組み合わせをしたこの常連さんは絶対に金持ちだ。
コンビニの限定スイーツなんて私には手が出せないぞ。しかも毎回値段が三桁なのに一葉さんやら諭吉さんを出すなんて、本当になんてやつだ!暗算苦手でレジという強い味方がいる私だが、お札を出すのに時間がかかる。
お札がきれていてあって百円でじゃらじゃらとお釣りを返したのはいい思い出だ。その時の彼の顔はひきつっていた。そんな顔するんなら小銭持ってこい!

まぁ、心の中でひっそりと彼を罵りながらも何だかんだ言ってこんな日常を楽しんでいたわけで。

ある日、なんだかしょげた様子でコンビニへ入ってきた彼に首を傾げつつ、いつも通りいらっしゃいませと声を掛ける。いつもなら歪につり上がったおっかない笑顔を返してくれるのにな、変なの。

レジにやって来た彼は、相変わらず限定スイーツを持っていた。でも、今日持っている数は二つ。

「1300円になります。スプーンは」
「一つでいいっショ」
「かしこまりました。10000円お預かりいたします(なんで一葉さん出さないんだよ…!)えー、あー…8700円のお返しです。ありがとうございました」

出ていこうとする彼を慌てて呼び止める。カウンターにスイーツが一つ置きっぱなしだ。

「それ、やるっショ」

ニイ、と笑った彼に思わず見惚れる。

その次の日から、彼は来なくなった。






気になっている子がいる。
俺がいつも見てるグラビアに出てるみたいに可愛いわけでも美人なわけでも胸がでかいわけでもない。けど、目でおってしまう子。

…いや、やっぱ可愛いっショ。

多分同い年で学校は違くて…接点が、ない。なんてことだ。
とりあえずほぼ毎日、彼女がいるコンビニに通ってみる。接点ないからこれくらいしかできねぇんだよ察してくれ。

「いらっしゃいませー」

今日も彼女の笑顔は輝いてる。今泉が営業スマイルでしょうなんて言うからとりあえず頭を叩いておいた。

なんてこと言うんショお前。

「650円になります。スプーンはおつけいたしましょうか」
「お願いするっショ」

とりあえず5000円札を出せば一瞬彼女の顔が「うげっ」と歪む。わざとだってわかってねぇっショ絶対。

「5000円お預かりいたします…4350円のお返しです。ありがとうございました」
なんだか恨めしそうに限定スイーツを見つめる彼女が網膜に焼き付いた。
いつだったかガム二個買った時に諭吉出したら両手いっぱいの百円玉が返ってきたっけなぁ。あれには笑ったっショ。

「ハァ…」
「巻島、どうしたぁ?」
「あ、田所っち…」
「あのコンビニバイトか?」
「そうなんだけど…もうすぐ俺、イギリスだからなァ…」

もうあの笑顔が見れないと思うとなんか、アレだ。すごく気分が落ちる。東堂からのストーカー紛いの着信履歴見た時以上に。

あ、涙出てきたっショ。

肩を優しく(多分)叩いてくれる田所っちは本当に良い友達だ。

荷物整理と勉強の合間に足げもなく通いつめ、ついに彼女も歩いてくる俺を見つけて笑ってくれるようになった。

それも、今日で終わりだ。

いつも彼女が食べたそうににらんでいた限定スイーツが二つ並んでいたので迷わず手に取る。こんなマンガみたいなことをするなんて、あの後輩に随分毒されてしまったらしい。

レジへ持っていけば不思議そうな顔で首を傾げていた。

「お客様、あの、忘れ物ですよ!」
「それ、やるっショ」

目をまんまるに見開いた彼女を脳裏に焼き付けて、俺は日本を後にした。





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