終いには怒りだした彼女を宥めようとも叱ろうとも思わなかった。彼女は怒りながら悲しみを目に孕ませていたのだから。何より彼女にそんな顔をさせているのは他でもない自分であり、どうしようもない事であるのも事実なのだ。蛍光灯の音だけが部屋にいやに響いて耳につく。



「だから…駄目だって言ったのに」

「…ああ」

「私…出来ないよ」



堕ろすなんて出来ない。そう呟いて、彼女はとうとう涙を零した。彼女の中に息づいたそれはまさしく俺の血を引く子供である。彼女が妊娠に気付いたのは悪阻の気配と生理不順からだった。数週間前、事の最中に非妊具が破れるという事件が起きた。一足先に気付いた尹月が止めようとしていたが、俺は止められず最後まで事を運んでしまったのだ。結果の妊娠。いけないと分かっていたのに。尹月はまだ大学生で、俺も就職したての若造だ。



「私…産むよ。蔵ノ介が止めても、産む、から」

「…そうしてや」

「ばか…!」



俺は尹月を包み込むようにそっと抱きしめた。きつく抱きしめては壊れてしまう気がして、俺はそっと腕を回した。尹月は少し身体をよじって抵抗したが、すぐにそれをやめた。



「尹月…責任なんか、取りきれるような問題やないと思う。けど、取らせてほしい。大学も辞めてもらわなあかん事になって、ほんまに、ほんまに申し訳ないと思っとる。尹月の夢とか将来とか、俺なんかが無茶苦茶にして、そんで言うのも、お前何言うとるねん、て思うかもしれんけど」



尹月の目に溜まった大粒の涙を指で拭って、俺は長年口に出来んかった台詞を漸く吐き出した。



「結婚してください」



尹月は何度も何度も頷いた。俺がもっと早うに言うとったら、こんな事にはならんかったのに、ごめんな。臆病者でごめんな。
愛しとるよ。



100704

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