尹月は無防備やと思う。
「ユウジのベッドってやらかくていいなぁ」
「ちょ、下りんかい」
「やだぁ」
いくら幼なじみだとはいえ、お年頃の女が男のベッドに気安く上るものでは無いと思う。ベッドが軋む音を背中に聞きながら俺は必死に平静を保った。
「尹月…尹月」
そして俺は尹月の特技は"何処でも眠れる事"だというのを忘れていた事のだ。すっかり静かになった室内。雑誌を閉じてベッドに近付く。尹月が無防備に眠っていた。
「…間抜けやなぁ」
あどけなく口を開けて眠る尹月の顔を携帯のカメラに収める。シャッター音にびくびくしながら保存。
尹月を起こすでもなくベッドの側にじっとしゃがみ込んでいる俺の姿はなかなかに滑稽だ。俺は呼吸するのも忘れて尹月を見詰めた。
「…尹月」
起きない。悪戯でもしてやろうか。マジックで額に"肉"とでも書いてやろうかと思ったが、流石に女子にそれはないなと思い直した。
俺がしたい悪戯は、そんな事じゃなくて。
今その唇を食べてしまえば、尹月は起きるだろうか。そんな事が出来るはずも無いのに、俺は考えていた。そして眠り姫は今日もキス無しに目を覚ます。
100620