「尹月〜」

「何?」

「なあなあ、次のデートどこがええ?尹月の行きたい所やったらどこでもええで?」

「一氏の居ない所」

「さすが尹月…COOLや…」



私の彼氏は正直鬱陶しい。私が冷めているだけなのかもしれないが、こいつの鬱陶しさは尋常ではない。小春ちゃんの気持ちが分かる。



「あ、仲岡君、こないだのプリントなんだけど」

「え!あ、ああ、机に入れといたよ!えっと…じゃあ俺行くね…?」



私に話し掛けられた男子の反応は大抵こうである。なぜなら私の後ろには阿修羅の如き顔をしたユウジが居るからだろう。
ユウジの溺愛ぶりが、重い。



「一氏」

「なんや?」

「…離れて」

「…」



ユウジは怒られた犬のようにしゅんとすると、ゆっくりと私から離れた。そんな様子が可愛いと思えてしまう自分に少しイラッとした。

結局私もユウジが好きなのだと思う。





「尹月ー」

「何?」



3-2前の廊下を歩いていたら間の抜けた声の謙也に呼び止められた。ユウジに見つかると厄介なので、少し距離を置く。



「お前…ユウジと付き合うとる…よな?」

「…そうだけど」

「あれ見ても何とも思わんの?」

「…べつに」



謙也が指差した先にはユウジが女子に囲まれていた。そういえば昨日は物真似ライブの特別編があったんだっけか。いつもは休み前にライブがあるためこんな事は無かったが、今回は興奮冷めやらぬファン達がユウジにたかっている。乙である。
困った顔でむすっとしているユウジを眺めていたら、ユウジがこちらに気が付いた。



「尹月!」

「私なんかより、あの女の子達に囲まれてた方がいいんじゃないの?一氏くん」

「…尹月、行こうや」

「どこに?私ユウジと行くところなんてない、っ!いたっ…!」

「尹月!」



ぎり、と痛いくらいにユウジに二の腕を捕まれた。ちょっと二の腕は止めて欲しい。私が嫌がるのも無視してユウジは歩を進める。



「なに…」

「尹月は、俺がどんだけ尹月の事好きか、知らんの…?」

「…知ってるよ」



ユウジの足が止まった。



「ほんまに?」

「ユウジが私の事大好きなのも、私自身やきもちしてるのも、知ってる」



ユウジは目に涙を湛えたまま、振り返り私をぎゅうと抱きしめた。



「…尹月、めっちゃ好き」



私もユウジの広い背中に手を回した。





「あいつら、不器用やんなぁ」

「見とるこっちがむず痒いっちゅー話や」



100617

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