尹月が俺を応援するために、東京まで出てきてくれた。俺は負けへんかったんやけど、うちは準決勝の団体戦で負けてもて、決勝は観戦する側になった。
俺も尹月も悔しかったが、滅多に見られへんくらいレベルが高いであろう試合を一緒に見られるだけでも良しとする。



「蔵、決勝に出る立海ってあの人ら?」

「おん。あの芥子色な」

「へぇ…」



せっかく他の奴らが気い効かせて尹月と二人きりでおるのに、当の尹月はドームの外のコートで練習しとる立海に夢中や。尹月の視線を独り占めしてええんは俺だけやのに。



「ねぇ蔵、あの銀髪の人は?」

「仁王クンや。ほら、例の詐欺師やで」

「じゃあ、あの赤い髪の」

「丸井クンやな。ボレーの名手や」

「ならあの青い髪は…」

「幸村クンや」



尹月はキラキラと目を輝かせて立海の奴らを見ている。確かに顔はええ奴ばっかやし、うちには居らんタイプやと思う。かっこええ奴に見惚れる年頃なんは分かるけど、もっとかっこええ奴が隣におるやろ!



「…あれ、白石?」

「白石て、四天宝寺の奴か?」



どうやら王者の練習を凝視するという肝の坐った奴は俺らだけやったらしく、幸村と仁王がこちらに気付いた。ああもうこっち来んな!尹月をちらと見遣ると予想通り嬉しそうに二人を眺めている。もうあかん。帰りたい。



「やあ白石。"ベスト4"おめでとう」

「どうも。幸村クンこそ、病み上がりで決勝頑張りや」

「ふふ、頑張るまでも無いよ。あの程度に負けるなんて、考えられないな!」

「ははは、さよか!なら前みたいに挙げ足取られんようにしぃや!」

「それは真田だけだよ、ふふ!」

「はは!」



病み上がりのくせに相変わらずねちっこい奴やなこの昆布頭が!いつかこの幸村とは決着をつけなあかん。
とかついうっかり幸村に夢中になっとるうちに尹月が仁王に連れて行かれた。なんたる失態や。幸村と舌戦を繰り広げながら横目で尹月を見た。いつの間にかワカメ頭やら丸井クンまで増えとる。俺という彼氏が居ながら立海で逆ハーとか…やるやん…。



「尹月!」

「あ、蔵」

「帰りますよ!」

「お、お母さんみたい…」



ぐいぐいと尹月を引っ張って、会場に戻る。尹月はワカメと気が合ったらしく、引き離した俺にぶーぶーと文句を言いながらついて来た。
会場に着くとそこは正面の入口では無いためか、人がまばらだった。



「…尹月、もうあいつらと話したらあかん」

「えー…」

「ヤキモキ焼くで」

「そしたら蔵が可愛いから」

「あほ」



尹月のおでこにキスをしながら彼女のアドレス帳からワカメを消した。



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