俺はずっとあいつを待っていた。

「ユウジ…!」

ルールも何もない、ただ殺し合いのステージと化したこの学校で俺は確実に生きていた。テニス部員で殺し合え。そんな突拍子もなく理不尽な命令にも自分自身驚く程柔軟に対応出来た。新米のテニス部員なんかは殆ど全滅やろな。冷静に経緯を考察しながら、俺は待ち合わせの場所にやって来た尹月に影からそっと手招きした。校舎裏の物置の北側、影の影。ここが初日別れた時に約束しとった場所。三日経ってお互い生きとったらここで合流、一緒に生き延びるんや、と。尹月は俺を見つけるやいなや涙を流して喜んだ。生きててくれてありがとう。そう泣きながら俺の腕の中に飛び込んだ。けどそれは俺も同じ。よう生きとってくれたなぁ尹月、三日間守れんくてごめん、これからは俺がお前を守るから。そう誓った。

「本当に…ユウジ…生きてるよね?」

尹月がまるで俺がお化けであるかのように俺の足を見る。

「当たり前や。ピンピンしとるわ」

「私、ユウジがここに居なかったらって、ずっと、ずっと…!」

「大丈夫、大丈夫やで」

俺は震える尹月を強く抱きしめた。きつく、尹月の髪に鼻先を埋めるようにお互いの体温をすり寄せて、生きているという実感を心に刻んだ。

「…ユウジの大丈夫、って言葉、すごく安心する」

「さよか」

「ねえユウジ、大好きだよ」

「ん」

「ユウジ、私の事守ってくれる?」

「当たり前やろ。大丈夫や」

「ありがとう…」

俺がそう言うと尹月はにっこりと眩しいくらいの笑顔を浮かべた。尹月を守るためなら俺は何だってやる。死んででも尹月を守る。






「本当に、ありがとね」







パン、と渇いた音と煙る火薬の臭い。胸の熱はじわじわと体中に広がり、喉にせり上がる熱いものは果たして何なのだろうか。

「言うの遅くてごめんね。あとはユウジだけなの」

あとはユウジだけ、その言葉を理解するのに血の巡りが悪くなった俺の頭では随分時間がかかったが、視界が暗くなる頃にはようやく。お人よしな謙也や銀さんはともかく、あの白石や賢い小春の姿が見えない事に俺は少なからず疑問を抱いていた。隠れている、とは考え難い、まるで俺以外誰も居ないような校舎。俺の隠れるのがうまいだけやとばかり思っていたが、違ったらしい。

「尹月が…ぜんぶ殺ったんか…」

「みんな私を見ると油断してたから簡単だった。白石だって。うふ、うふふ。このゲーム、最後の一人になるまで続くんだよね。だから私、ずっと前から考えてた事、したくなったの」

ユウジをこの手に掛けたい。
三日間の間に余計なのは全部片付けて、最後はゆっくり、ユウジの中の中まで覗き込む。

尹月が舌なめずりをして胸元からサバイバルナイフを取り出した。公務員室で見た事がある、よく切れるから、と言って古くなったネットを切るのにオサムが何回か借りて来ていた。
血が随分と抜け落ちた俺の身体はあっという間に冷めていって、立つ力も萎えて倒れる。こんなにじめじめした所が俺の最期の場所になるらしい。モノマネしか能の無い俺にはお似合いだと自嘲した。

「ユウジ大好き。ユウジのナカ、沢山見せてね」

尹月が俺の上に跨がって、皮肉にも今までで一番綺麗な笑顔。


もしかしたら俺もこれを望んでいたのかもしれない。自然と俺の口角が持ち上がる。
俺はずっとあいつを待っていた。




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