ある日お兄ちゃんが小さな命を拾ってきた。

「うちはマンションなの!絶対ダメッ!」

「ばってん、こげな台風の中に置き去りは出来んとよ」

薄汚れて茶色くなった捨て猫はどうやら元は白いらしい。お兄ちゃんは猫のその白いちいさなお腹を私に見せながら話すので私はなんだか悪い事をしている気がしてきた。私だって子猫大好きだし撫でたいけどここで折れたらマンションの管理人に叱られる。お兄ちゃんの言う通り窓の外ではとんでもない勢いで雨や風が吹き荒れていて台風直撃という事象を私に知らせていた。もちろん今帰ってきたばかりのお兄ちゃん達もびしょ濡れである。

「…元の場所に戻してきなさい」

「尹月ちゃん酷かねー。俺をこの雨の中追い出すつもりったい」

お兄ちゃんと猫がじっと私を見つめてきた。しかも子猫のつぶらな瞳がうるうると私を見つめるのでたちが悪い。

「…もう!」

すきにしたら!私は折れてしまった。私もとことんお兄ちゃんに弱い。






「わわっ」

ドン、と大きな雷が近くに落ち、同時に我が家の電化製品は活動を停止した。夜遅かったせいで停電すればそこは真っ暗闇だ。リビングでテレビを見ていた私はソファの上で固まる。

「尹月ちゃん、大事なか?」

「お兄ちゃん…」

急に抱き竦められお兄ちゃんの腕の中に収まる。そこから抜け出す頃には目はすっかり暗闇に慣れていたが、ぼんやりとした輪郭しか捉えることができない。ふと足のそばを何かが横切り、私はまたお兄ちゃんの腕の中にダイブ。

「わ、わ、わっ!」

「尹月落ち着きなっせ、猫たい」

「あ…」

足元で小さく鳴く子猫は怯えたように縮こまっていたので、私はなんだか申し訳なくなってそっと抱き上げた。雷はまだまだ遠くに行きそうにない。

「尹月ちゃん、もう寝ん?」

「うん」

「あ、ひとつお願い」

「なに?」

「こいつも一緒によか?」

お兄ちゃんは私の腕の中の子猫を差した。別に悪い案じゃない。
その夜私達はベッドで川の字になって眠った。とても激しい嵐の夜だったけど、そこは暖かかった。


101022

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