すごいかっこいい人だね!ときゃあきゃあ黄色い歓声をあげる友人の隣で私は血の気の引いた顔でカクテルをちびちびと呑んでいた。私の前に座っている金髪のイケメンはにこにこと爽やかな笑みを浮かべて前菜をつついている。

「忍足君、医大生なんやなぁ」

「せやで。けど頭こないな色やから信じてもらえんねん」

「えー?忍足君頭良さそうやで?」

「はは、おおきに」

友人は早口に"忍足君"に話しかけていた。やめてくれ、頼むから。居酒屋の照明が薄暗いとはいえ、きっとばれているだろう。私が謙也とのデートの誘いを断り合コンに来ているという事に。どうして彼はこの店だと分かったのか今ではもう知るよしもないが、謙也の笑顔が痛い。でもデートを断ったのには深い事情があるのだ。本来ここに居るはずだった友人は大切な用事とかで来れなくて、お金を出すから代わりに行ってくれと頼まれた。それにその友人にはレポートを手伝ってもらったりしているので逆らえないのである。それでも私の事情を知らない謙也は相当お怒りのようで、見せつけるように隣の女の子にサラダをよそってもらっていた。

「尹月、せっかく前に居るんだから何か話しなよ」

謙也と私の関係を知らない友人は隣からひそひそと耳打ちするがそれどころではない。話すとしたら"今日の言い訳"だ。
どうして謙也に合コンとばれたんだろう、そう思っていたら、謙也が口を開いた。

「今日ほんまやったらここ俺ん友達が来るはずやってんけど、来て良かったわー」

「そうなんやぁ」

「なんや可愛い子おるって言うとったからなぁ」

その台詞に謙也の隣の女の子は騒ぐが、もちろんその「可愛い子」の時に睨まれたのは私である。どうやら謙也の友人が話したらしい。人の気も知らないで。いや、元は私が悪いけど

「尹月さんカクテルとか呑むんやぁ、なんてやつ?」

「えっ…オレンジなんたらってやつ」

私と謙也が話していないと分かったのか、別の男が私の隣に割り込んで来た。隣に居たはずの友人はいつの間にか目当ての男の隣で落ち着いているし、前には謙也、隣には酔っ払いという最悪な陣形だ。

「尹月さーん」

「どはっ」

私の名前を馴れ馴れしく呼ぶ酔っ払いに抱き着かれて目の前の謙也に助けを求めたが、顔を逸らされた。最初から期待なんてしてなかったけど、アルコールも手伝ってじわりと涙が滲む。彼女のピンチなのにスルーって何。そりゃ黙って来た私が悪いけど、理由を聞いてくれたって。
えぐえぐと鼻水を堪えていると、目の前からポケットティッシュが差し出された。もちろんその手の主は謙也。謙也…すき…!そう思いティッシュに手を伸ばした瞬間引き上げられる私の身体。テーブル上の皿を盛大にガチャガチャと言わせ、纏わり付く酔っ払いを振り払って立ち上がると、目の前が真っ暗になった。というより謙也の顔が近すぎるという方が正しいかもしれない。きゃあっと女の子の悲鳴が響いたが、顔を離した謙也は綺麗に微笑み、

「尹月さんお持ち帰りで」

私の手を引いて店を出たのだった。


101022


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