// 対峙







一人だけ氷帝のジャージを着てるなんて、道場破りか。



「前に言うた通り、転入生の松本や」

「よろしくお願いします」



私は今無事に四天宝寺テニス部員となった。黄色いジャージの中に青がぽつん。私の分のジャージはまた後日もらえるらしい。それまでは侑士のお古のジャージで我慢だ。
だが今はそんな事はどうでもいい。私と財前、どちらが上か。



「松本、財前。来なさい」

「はい」



そして白石はどこまでも私の考えを読む奴だ。本当に対決を実現してくれるなんて。



「松本のレベルを見るために財前と松本でシングルスの試合をしてもらう。練習試合やと思って手え抜いたらあかん。特に財前、レギュラーの座かかっとるで」

「はい」








待ち焦がれていた練習試合に久々に身体が疼くのを感じた。男になった事で闘争本能が強くなったのだろうか。
慣れないコートでのハンデのつもりか、最初のサーブは私からだ。



「…行くよ」

「はよしてや」

「ふん」



ボールを高く投げ、ずっと前鳳に教えてもらったスカッドサーブを、打った!



ガッ



はずだった。



「アウト!」

「…あ」

「は?」



私の投げたボールは勢い良く空に舞い、思っていた以上に高く飛んでいたらしい。男体になって力の調節が利いていないのかボールはそのままラケットのフレームに当たり、盛大なホームランをかましてしまった。



「…あれぇ」

「しっかりしいやー」

「何やっとんねん!」



周りから野次が飛ぶ。氷帝のレギュラーだったという説明も手伝って、随分期待されていたらしい。こんな初歩的なミスが許されるはずはない。



「…あー、めんど」



財前が面倒そうにこちらを見ている。くそ、むかつく。

次のボールを握り、今回は少し緩めにボールを投げた。コーナーギリギリを狙い、打つ。財前は直ぐにボールに追い付き、打ち返してきた。重い。侑士とテニスをしている時のような力強いボールが返ってくる。
だが今はこちらもそれを打ち返すだけの力はあった。



「軌道ガタガタやで」

「あっ」



反対側に打たれて、私がボールに追い付く事は出来なかった。



「そんぐらい返せや!」

「ほんまに氷帝のレギュラーやったん!?」

「氷帝もレベル低いなぁ!」



次々と野次を飛ばされて、情けなくもじわりと涙が滲んだ。何だこのアウェーな雰囲気。及川瑞希にとって大阪はもう一つの地元のようなものだったけど、今はトラウマになりそうである。ラケットを握る手が震える。



「くそ…」

「ちょい待ち」

「…え?」



試合を続けようとした私と財前との間に謙也が割り込んで来た。何だろう。



「自分…イップスなんちゃうん?」

「え…」



イップスって、緊張とかで思うようにプレイ出来なくなるあれですか。私が、イップス?確かにレギュラーにしては動きがおかしいと謙也は見抜いたのだろうか。今までヘタレだと思っていたけど、すごいぞ謙也。



「な、白石」

「野次こんだけ飛ばされたらそらやりにくいわな…すまん。俺が軽率やった」

「あ…え」

「今日は中止や!それぞれ自主練に戻ってくれ!」



白石の命令はまるで鶴の一声といったところか、周りで観戦していた部員達はばらばらと散って行った。



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