// 浪速






「松本はんはボケでっか?ツッコミでっか?」

「は?」

「我が四天宝寺中の校風は文武両道と"常笑"でんがな」

「えと…ツッコミ…?」

「ふむ」



私は今、男の松本幸喜として大阪に居る。(この名前は前に侑士と一緒に考えた)
今日は四天宝寺中に転入するために校長室で、ここの校長、シッテンホージさんに奇怪な質問を受けている。怪しまれないようにと氷帝の榊先生に紹介文まで書いてもらったのに(流石に榊先生には事情を話した)、開口一番の質問がこれである。
隣に座って居る保護者のおばさんは微動だにしていないが、元々関西人のノリに合わせられない私には辛い。



「部活なんかは何に入るんでっか?」

「あー、テニス部…」

「おーテニス部!我が四天宝寺テニス部は去年全国ベスト4の成績を修めとります。丁度今日も練習しとるんとちゃいまっか?」

「え」

「見学して行きなはれ」

「は、はい…」



校長の半ば強制的な誘いによって私達はテニスコートに向かった。四天宝寺が全国に行ったのは謙也に聞いて知っている。今コートに謙也は居るのだろうか…。謙也にばれてはいけないのでおばさんは先に帰ってもらった。






「そこ、フォーム乱れとるで!」

「白石部長、どないでっか」

「あ、校長。ぼちぼちですわ…その子は?」

「来週からうちに来る二年生の子や。テニス部入りたいみたいやから、仲良うしたってや」



大阪っぽい挨拶をして白石がこちらを向く。相変わらず綺麗な顔だ。ばれないかと内心どきどきしたが、白石は営業スマイルで「よろしゅう」と手を差し出す。



「…どうも」

「二年生なんやな。前の学校でもテニスしとったん?」

「あ、はい」

「氷帝でレギュラーしとったらしいわ。こらえらい戦力になるで」

「まじでっか!せやけど氷帝…にしては見た事あらへんな…」



あわわ、それ女テニの話だから!



「ついこの間なったばかりなんで…」

「そら残念やったなぁ…ま、うちでも頑張ってや。こっちにも張り合える奴ぎょうさんおるでぇ」

「は、はぁ」

「なんや、新しい子か?」

「松本はん、渡邊先生や」

「オサムちゃんはこう見えてもうちの顧問なんやで」



チューリップハットを被ったうさんくさい放浪者、いや、テニス部顧問は私をなめ回すように見ると、よろしゅう、とぶっきらぼうに言った。



「ほな松本はん、また来週な」



どうやら日曜は自主練だったらしく謙也の姿は見当たらなかった。内心ほっとしながら学校を後にした。私ここで上手くやっていけるのかな。学校を出てしばらく歩いているとおばさんと合流した。



「瑞希ちゃん、やなくて、幸喜くんどうやった?」

「んー、中々かな。謙也にばれないようにだけ気をつけないと」

「そうやね…あ、これマンションの鍵ね。さっき行ってきて管理人さんにも挨拶してきたから」

「これ一本だけ?」

「ううん。もう一本はこれ。侑士に渡しといてええ?」

「うん」



東京行きの新幹線に乗り込む。もうすぐ本格的に大阪での生活が始まると思うと不安で、私はいつの間にかおばさんの手を握っていた。



100523

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