// 実感
「…やっぱり私、東京離れる」
「瑞希ちゃん…本当に…」
「しゃあないわオカン。それが瑞希を守る為なんや」
「そうやね…」
知り合いの沢山居る東京で、この事を隠しながら過ごすなんて不可能なのだ。私は決意した。けど、どこに行けば?
「…大阪、どや?」
「大阪?」
「小学校ん時までおったやんか。それに謙也もおるから俺も行き易い。全然知らん土地よりそっちのがお前もええやろ」
「そやね…瑞希ちゃんそうしたら?そっちのがおばさんも安心やわ。そういえば謙也くん家のお隣りのマンション、空き部屋できたみたいやし」
「謙也にばれないかな…」
「新しく引っ越して来たっちゅーふりしとけばええねん。お前の顔もだいぶ変わっとるし、謙也はアホやし、下手せんかったらバレへんやろ」
何もかも知らない土地に行くより、少しは知っている土地に行く方が良い。
おばさんはすぐにそのマンションの手配をしてくれて、侑士も何かとアドバイスをくれた。こんな変な事になって、実のお母さんやお兄ちゃんでもないのに。本当にありがとう、と私は感謝の気持ちでいっぱいだった。
「明日、男物の服一緒に買いに行こな」
「…うん」
「あ、実はさっきから気になっとったんやけど」
「うん?」
「トイレとかどうしt「黙れ」
そんなもん見て見ないふりしながら済ませてるに決まってるでしょうが。
「侑士、どう?似合う?」
「あーかわええかわええ…て、何で女物の服合わせとるねん」
「あ」
「今のお前どっからどう見てもお姉系やで」
「…」
侑士に言われて始めて気づいた私はそっと服を元に戻した。今の私は男なのだ。このショッピングモールには侑士の服を借りて着て来ている。今度大阪に越すのに備えて今日は男物の服を買いに来たのだ。
「…ほな、好きなん選び」
「おー」
「見た感じ身長は170かそこらやろ。俺のやつと似たようなサイズ選んどき」
「うん」
始めて入る男物の服ばっかりの店は思っていたよりお洒落で可愛い。
「侑士ー私さー」
「瑞希、一人称」
「あっ、わた、お、俺」
一人称も俺に直しつつある。早く女口調を改めなければ。
とりあえず服、下着、靴をそれなりに、多少のアクセサリーも購入した。買物袋を下げながら本当に男になってしまったのだと実感する。
「…俺に話しても、痣が消えへんかったっちゅー事は…瑞希と俺は運命の相手とちゃうかったんやな」
「侑士…」
「ちょい、残念やわ」
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