// 羨望の痣






とりあえず今日は学校を休んで家に閉じ篭っていた。慌てるおばさんとゆっくり話し合い、原因を探す。大学まで行っておじさんに診てもらおうかとも思ったけど、余計ややこしくなりそうなのでやめた。そうこうしている内に日が暮れて侑士が帰ってくる。おばさんはふらふらと玄関に向かって行った。



「侑士、落ち着いて聞きなさい。瑞希ちゃんが…」

「瑞希に…何かあったん?」

「…男になっちゃった、の」

「…は?」



いやいや、今日エイプリルフールちゃうから、という侑士の声が聞こえる。完璧に疑ってかかってるらしい。それもそのはず。私だって未だに信じられない。
とりあえず実物を見せるしかないと思ったらしいおばさんがリビングに侑士を引きずってくる。



「…え、誰」

「…瑞希」

「ちょ、は?なにこれ」



ぺたり、と侑士が私の胸に触った。いつもなら殴り飛ばしてやるのだが、今日はその胸が無いのだ。
男になった事で身長も伸びているらしい。なんだか侑士の顔が近いなぁ。



「…元、戻るん?つか、なんでこんなんなったん?」

「わかんない…」

「何か原因が有るはずや。よう考えてみ」



原因?原因なんて分かってたら苦労しないし。
目が覚めたらこんな事に…あ。


「朝…妙なメール来てた!」

「妙?」



急いで部屋に携帯を取りに戻り、メールを開く。ばたばたとリビングに戻ってくる頃には侑士がソファに座り困惑の表情を浮かべていた。



「これ…なんだけど」

「差出人…ジュリエット、なぁ…怪しいわ」



あなたにはあいするひとがいるかしら
あなたにはあいするじゆうがあるわ
わたしとはちがうの
うらやましいわ
ねぇ、いたずらさせて
ひとつ。しるしをあげる
あいするひとにはないしょよ
そのひとにはなしたら、しるしがきえてしまうわ
しるしがきえたら、あなたはずっとそのままよ



「…意味解らんな」

「ね?」

「まあ瑞希になんかあったんはコイツのせい、っちゅーんはほぼ確定やな…」

「瑞希ちゃん…どうするのん?」

「おばさん…どうしよう、私…あ、謙也に相談…」

「─いや、それはやめとき」

「え?」

「ジュリエットは瑞希を羨ましがってこないな事したんやろ?ほら、ここ見てみ。"あいするひとにはないしょ""あなたはずっとそのまま"…あいするひと、っちゅうんはよう解らんけど、下手に他人に教えたら元に戻られへんかもしれん」

「…あ」



謙也がもしかしたら私にとって"あいするひと"なのかもしれない。いや、もしかしたら跡部、宍戸…考え始めたらきりがない。もしかして私、誰にも相談出来ないんじゃ…?



「侑士…は…」

「俺は身内やから多分大丈夫…やと思う。瑞希、身体のどっかに"しるし"あるか?」

「"しるし"?…あ、これかな」



丁度腕まくりをした左手首の内側(血管が浮いている側)に赤いアザが出来ていた。見方によってはバラ?に見えなくもない。人に話すと消えてしまうらしいが今はばっちりある。どうやら従兄妹(弟)はセーフらしい。



「…思った以上にやっかい、やな…」

「私…どうしよう…」



100521

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